福岡の「鮨さかい」が竣工してから8年、2店目の「我逢人」ができて3年が経ち、このたび3店目の「在掌」が完成した。店主の堺さんと初めて会ってから10年あまり、その間、建築はもとよりさまざまな話を重ねてきた。
<鮨さかい 客席を見る>
参考ブログ 鮨さかい<竣工1> – 前田伸治 + 暮らし十職 (kurashijisshoku.jp)
このたびの「在掌」は、2店目が竣工して間もなくのころから相談があった。色々と悩まれていたようで、修行時代に苦労を重ねてきたこともあって、常に弟子のことを思いやっていた。当然自身の将来設計も考えているはずだが、人のことを優先する人柄は、今も変わらない。この計画も、若い弟子二人に機会を与え、板場に立たせて磨きを掛けたいとの、堺さんの思いは感じていた。饒舌に語る人ではないからこそ、言わんとすることが伝わってくる。
<我逢人 瑞光の間>
参考ブログ 我逢人(鮨さかい別店)竣工1 – 前田伸治 + 暮らし十職 (kurashijisshoku.jp)
2店目のころから弟子の数も増え、下ごしらえの厨房や従業員の支度部屋、店を管理する事務室など、裏方まわりの充実も問われてくる。そうした必要に迫られてのこともあるが、結果的に弟子の育成を優先する方針を固められ、今回の計画が始まった。堺さん自身も、将来に向けた道筋が見い出せたように感じられて、快く請けさせてもらった。
<在掌 エントランス入口を見る>
「鮨さかい」は、堺さん自身が握る板場として、望まれた数寄の意匠を取り入れて形作り、「我逢人」は、個室を望む客に焦点を当て、数寄の空間ならではの世界観を軸に、客を主役に3つの異なる個室をもった店として整えた。
こうした2店を作った後、新たな店をどのようなコンセプトで作り上げるかが、それからの互いの焦点だった。若い弟子に学んだことを伝え、なおかつ来る客にどのような満足を与えられるか、ことあるごとに話しをしてきた。それは、これまで建築に携わってきた私自身の責務でもあり、建築が果たすべき役割だと思っていた。
つづく(前田)