三沢の数寄屋<竣工3>

アプローチから玄関を望む。アプローチ正面にはアイストップの植栽をおいて、奥に広がる庭を感じさせつつも、一旦ここで視線を受け止める。玄関に添わすように袖すりの松をおいて玄関の存在を引き立てた。アプローチの延段は鉄平石の乱張りとして玄関へといざない、周りを砂利敷きとして延段と段差少なく納めている。これは冬季、積もった雪による脚元の不安を払拭するためでもある。

<アプローチから玄関を望む>

これが、この家の正面玄関となる。この玄関は表門を開いて迎える賓客を招くのが主たる目的で、家人の通用玄関は別に設けている。玄関前のポーチを広く取り、訪れた客はここで身づくろいをして、細目格子の格子戸から中に招じ入れられる。大きな建物だが、これ見よがしな玄関にはしたくなく、全体に穏やかな規模と佇まいを意識して整えた。

<玄関を見る>

玄関前には、景色にもなるようつくばいをおいた。つくばいは茶の湯に限ったことではなく、世塵の汚れを落とすという意味もあって玄関先に設えた。大きな庭ということもあり、大仰な構えで石を組み、周囲を植栽で囲って、踏石を段状に据えて降りつくばいとした。これはつくばいとしては古い形式で、小さな段差だが、歩いて降りてみると、囲われた空間がより立体的に感じられる。

<玄関先のつくばい>

玄関をどう作るかは難しい。表門から歩むに従い緊張が高まり、それを受け止めるだけの懐の深さが玄関の表情を作る。表門からのシーンの連続は期待を膨らませ、玄関は建物の顔となって、この家を包む雰囲気までもが伝わってしまう。建築に寄り添い、いかにこの家を表せられるかが、玄関周りの室礼に託される。その意味でも、取り巻く庭の繊細な息遣いが、空間を決める大きな要素となる。

<つくばいを通して玄関を望む>

アプローチから、つくばい前の飛石を伝って庭の苑路へと向かう。正面のアイストップの木々を抜けると、右に建物を望みながら一気に開かれた庭を望む。濃密なアプローチの空間は解き放たれ、豊かな広がりに包まれる。

<アプローチから苑路へと向かう>

<つづく>

(前田)