在掌(鮨さかい別店)竣工2

若い弟子2人に託すこの場所は、殻を破っていく力強さと、夜明け前の静謐さを、若人の巣立ちに重ねてコンセプトとした。これまでの2店は、洗練された数寄の空間を形にしたが、ここはもっと自由闊達な、型にはまらない、粋に似た感情がにじみ出ればと願った。

<アプローチ入口>

「鮨さかい」の隣がこのたびの場所で、店としての空間に加えて、3店全体のセントラルキッチン、事務室、従業員の支度部屋なども兼ね備える。また今回新たにワインセラーを設け、1畳半ほどの空間を造り付けでレイアウトした。昨今、ペアリングのブームも手伝って、ワイン人気が高騰しているのが主たる理由だった。計画上、エントランスの通路が長くなることもあり、そのかなめの位置に象徴的に見せ、矩の手をガラス越しに、美しくディスプレイできるように整えた。

<ワインセラーを回り込むように店内へ>

ワイン棚を設計するにあたって、改めてワインボトルを計ると、大小のばらつきがあるのを知った。ディスプレイで映る見え方や、並べる角度、本数など、ディテールを突き詰めていくのも楽しかった。結果的に200本を超える収蔵が出来たが、ワインの値段には正直驚きを隠せない。空調は単独の水冷式とし、結露が生じないか心配したが、問題なく作動して安心した。

<帳場からアプローチ、ワインセラーを見る>

店全体の色調は黒を基調として、木肌を取り合わせた。黒という色は、テクスチャーや光の当たり具合で映る色が大きく変化するのと同時に、うまく使うと温かみを出すことができる。白色の清潔感は、ともすれば冷淡な人を寄せ付けない独りよがりを与えるが、黒は光を吸収し、内部から静かに色を発光していく奥深さがある。若い弟子が羽ばたいていく象徴になればと思いを託した。各所の天板は、我逢人を施工してもらった青森から赤松材の提供を受け、壁面の黒に取り合う色付けを施して納めた。

<帳場を見返す>

店名は「明珠在掌」に由来し、幸せはどこか遠くにあるのではなく、自らの手のうちにあるのだという禅語から、堺さんが命名した。鮨さかいのとき、大徳寺瑞峯院の前田昌道老師に揮毫を戴いたこともあり、今回もお願いして快諾を得た。若い弟子に向けた、温かいまなざしを感じる言葉だと思った。

つづく(前田)