苑路に入ると一転して広々とした豊かな空間に包まれる。庭と建築がひとつになった内外一体の空間が展開する。建物回りは土縁といって、外側に下屋を差し掛けた土間空間を巡らせ、建物から庭に向けて手を差し伸べるがごとく、また庭も建物に招かれるように、分かつことなく内外の空間が交錯する。
<苑路の入り際から南庭を見る>
庭は回遊式として、歩きながら庭を鑑賞するのと同時に、庭から見る建物も、庭の景色の一部としての役割を果たしながら外部空間を形づくる。この庭では水を使わない枯流れの手法を取り、苑路には小さな橋掛かりを設けた。枯流れを伝い、橋の下をあたかも水が流れて、その大河が建物へと向かって流れていく。そうした見立てを砂利敷きで表した。大小さまざまな石を巧みに組んで枯流れの護岸を作っているが、こうした些細なディテールが庭を生動させる。
<橋掛かりから南庭と枯流れを望む>
橋から先は、枯流れに沿って苑路を設け、眼前には起伏をもった芝庭が広がる。表門から西に行くに従って、道路が1.2mほど高くなっていて、それに呼応するよう、庭のレベルも南西角に向けて土をかさ上げした。庭もその形状を生かし、柔らかな稜線を描くように芝庭を形づくった。庭からはもちろん、建物内からの視点も勘案し、幾度も成形を繰り返し整えた。
<苑路と枯流れ>
苑路を歩きながら、建物も少しずつ見え方を変えていく。建物に添えた松は、庭と建築をより近づけるための手段であり、建物すべてがあからさまにならないようにとの意図もある。先が見えるようで見えないのを奥ゆかしいというが、松をおくことによって箇所ごとに見え方も変わり、より奥行きを感じさせるよすがとした。
<苑路から建物を望む>
この庭のひとつの中心となるのが、南西角の滝口となる。実際に水は使わずあくまでも見立てだが、大きな石で背景の山を表し、段々に据えた石の上を水がすべるように、踏石前の海へと落ちていく。そこから枯流れは始まって橋掛かりへと向かう。組まれた石の周りには大小の木々を植込み、傍らには勇壮な松を添えることで、大きな庭を纏める堂々とした佇まいを目指した。
<南西角の滝口を見る>
<つづく>
(前田)