茶陶の工房、茶室<竣工4>

敷地を垣根に囲まれて開く瀟洒な門を見たとき、茶の湯とともに生きているお家だと感じた。穏やかで優しく、静かな佇まいに気品がみなぎっていた。この門から玄関までは、精緻な霰こぼしの延段が打たれ、それと直交して茶の湯の露地が交錯する。限られた空間を見事に活かして作られていた。

<外露地の腰掛から、露地を通して茶室を望む>

延段から手前が外露地となっていて、既に形作られていた。広間の外に接して腰掛が設えられ、正面につくばいが据わる。門から数歩で玄関にたどり着く距離ながら、その間を繊細に作りこむことで密度の高い露地に仕上がっていた。道路からは伺い知れない小空間だが、突き詰められたディテールは細部を生き生きとさせ、予想を超えた広がりを感じる。一歩露地に踏み入れば、まさにそこは「市中の隠」の趣で、丁寧に手入れされた青々した苔が、豊かな茶境を作り出していた。

<内露地から茶室を見る>

茶室は工房の建物に半ばくい込ませ、下屋の3尺を外に出す形で整えた。屋根の妻面を露地に向けて設えることで、茶室としての存在を引き立たせ、露地の風情に貢献させる。紅葉は露地を覆い、その大木の幹が内露地との結界を果たして、茶陶として代を重ねた歴史をしのばせる。既存屋根との取り合いが厳しいと踏んでいたが、実測に基づく設計寸法で納まり、新旧の建物が違和感なく纏まったのは幸いだった。

<躙口から内露地のつくばいを望む>

柱の脚元の根石は、琵琶湖畔で探したもので、素直な形では面白みに欠けるかと、敢えて不整形な石を選んで据えた。それに調子を合わせ、庭師が差石を配ってくれたことで、見どころもって納まった。脚元に目を配る人は少ないが、根石は建物の品格に影響を与える存在だと思っている。躙口の前を叩きの軒内にするか、施主と庭師を巻き込んで討論したが、佇まいを優先して建物際まで苔を張り込んだ。それが却って内露地を広々とさせ、限られた空間を生動させたようだ。

つづく (前田)