あたりをつけて入れた松も、見当通りに納まった。芝庭にふくらみをもたせ、正面玄関とは異なる広々とした玄関庭を目指した。敷地南西に向けてかさ上げしたレベル差を、紅葉の裏に組んだ石垣で解消し、その石垣で紅葉山を際立たせた。松の根元を覆う芝庭を起伏させて石垣まで登らせ、奥行き感を与えて背景を整えた。
<西玄関前を見る>
西玄関の中から外を見る。玄関の大屋根の下に下屋を差し入れ、軒裏に杉柾板を流し張りに張った。この下屋は、勾配そのままに室内まで延ばし、玄関の中からホールまでを貫き通している。もちろん無垢板だが、こうした材料が得られるのも、原木で調達し、自由な木取りができるからに他ならない。
<西玄関から玄関前庭を望む>
日本建築の特徴のひとつが軒裏の意匠である。室内から見ると、軒先と敷居で切り取られた空間を通して、庭の景色を室内へと取り込む。そのため、否応なしに軒裏が景色とともに目に映る。棰(たるき)を流して、木舞を渡し、裏板を張る。何気ない箇所だが、そうした細部に手をかけ、繊細な造形に仕立てているのは、ひとえに庭と建築とを結ぶ意義を思ってのことである。棰を細かく入れたのは、軒の出に伴う三沢の雪の重さへの措置である。
<寝室前から南庭を望む>
この家を設計しながら、おぼろげに庭の姿を思い浮かべていた。しかし、いざ手を付けるとなると、大きな空間だけに不安がよぎる。先ずは滝口の石組みから始め、外周の背景となる樹木を植え、苑路の道順を見定めながら、枯流れの護岸を組んでいく。と同時に、諸々のシーンを想い描きながら景石をちりばめ、見せる樹木を選別して順次入れていった。手探りながらも思いは膨らみ、一本入れては見返してを繰り返し進めてきた。
<土縁から南庭を望む>
木はその向きによって、まるで異なる表情を現わす。生きている木を相手の真剣勝負は厳しい。樹木を、庭石を、ひたすら見つめてその一点を見出し、それを周りの木とどう取り合わせ、ひとつの世界を作るのか。庭として全体を纏めながらも、それぞれに呼応する室内空間とどのように対峙させるのか。庭を歩く視点はどうか、室内に座ってどう見えるのか。考え得る限りの対話を自らに問いながら作っていく。
<苑路から橋掛かりを通して正面玄関方向を見る>
建築とは明らかに作り方が異なるが、常に対象と同化し、当意即妙で決めていく臨場感は庭づくりの醍醐味である。次回からは、建物内部を紹介していこう。
<つづく>
(前田)