若い家族のLDKとなる。キッチンは平天井として、左手の壁一面には、造り付けの食器棚を設けた。その裏がシアタールームになっていて、この食器棚が防音の役割を果たす。この家のパブリックな床は、すべて赤松の縁甲板を張った。岩手県北から青森県東岸にかけてが赤松の産地で、いまも良質な材が手に入る。まだ松くい虫は出ていないが、それも時間の問題らしい。材の肌触りが柔らかく、暖かみがあって色艶も申し分ない。
<西LDK,キッチンを見る>
天井は棰桟を意匠にしたもので、桟を格子のように細かくリズミカルに配った。この天井の最も高いところで3、5mある。外観は軒を低く穏やかにまとめながらも、内部でこの吹抜け空間を得るには、小屋組みを相当詰める必要がある。架構を書いた梁の曲がりに合わせ、山で曲木を探して木づくりした。片流れの天井ならさほど苦もないが、矩の手でせり上がることと、間口寸法が大きいことから、この小屋組みが最大の難関だった。それもこうした内部空間を作るためで、大工技術は目に見える造作もそうだが、見えない仕事をいかに手際よく納めるかも大事なところである。
<西LDK,ダイニングからリビングを見る>
このLDKでは、庭で見た滝口を眺めながら、広々とした芝庭を見せることにあった。両親のリビングから見る庭は、枯流れを水に見立てる「動」の庭を主とし、こちらは一転して「静」の庭として、豊かな広がりを主眼とした。同じ庭でありながらも、見る場所からその景色が一変する。それを対比させて見せたいと思った。
<ソファーに座って南庭を望む>
ソファーに座ってみると、南庭の芝生が緩やかな起伏をもって連なるのがわかる。芝生の稜線が苑路を隠し、奥の植栽と芝庭を一体にみせる。開口の高さを2、4mと大きく開き、天井から続く勾配が下屋の軒裏に繋がって、庭へと視線をいざなう。内外一体の醍醐味だろう。
<西LDK,リビングからダイニングを望む>
道路外周に回す塀の高さも悩むひとつだった。もちろん道路から中が見えるようではいけないが、塀を高くすると近隣に威圧感を与え、また室内から見れば圧迫感を覚えかねない。幾度も現場で見直し、角度を変えて見たりと慎重に判断した。塀が長くなることから、瓦を載せて意匠を引き締め、なるべく低く抑えたが、感じよく納まったようだ。
<南面の開口を通して庭を望む>
<つづく>
(前田)