三沢の数寄屋<竣工7>

この建物は数寄屋といえど、丸太はほとんど使っていない。雪対策として強靭な架構を作らねばならないこともあるが、青森の地は木材の宝庫で、原木を調達させて頂くこともあり、製材した木材で数寄屋を表現してみたいと思った。また丸太を使うことが数寄屋だという風潮にもうんざりしていて、そうしたことへのアンチテーゼとも考えていた。数寄屋が内包する情感を、丸太という自然に近い素材で表すことの妥当性は承知しているが、それと同等のことを寸法で実現してみたい。空間を構成する広さや高さ、部材の寸法や納め方、さらに面の取り方から建具にいたるまで、徹底的に寸法で見せたいと決めて望んだ。

<正面玄関を見る>

この玄関は、表門を開いて招かれる賓客を迎えるのが目的である。そのため、威儀を正して式台を構え、舞良戸を立て、天井を格天井として整えた。式台は厚さ5寸の一枚板を、軽やかに見せるよう手前を削いで納め、格天井には桐板を市松に張り、桟を極力細く、猿頬面を取って繊細にまとめた。こうすると格天井も異なる柔らかさを漂わせる。

<正面玄関からアプローチを望む>

玄関の格子戸もそれらに調子を合わせ、細目格子の格子戸を引分けに、床は敷瓦を四半敷きに敷いている。四半敷きは鎌倉時代、禅宗が我が国に入ってきたときに渡ってきた意匠で、茶の湯が禅宗に影響を受けたこともあって、こうした意匠が数寄屋に取り入れられたのではと考えている。

<玄関ホールから中庭の水鏡を望む>

玄関を上がると大きな中庭を見る。3方に廊下が回り、中には一面に水を張った水鏡が広がる。人類史上、最も古い鏡といわれるのが水鏡であった。人の姿や事象をありのままに映し出す水面は、神聖なものとされてきた歴史がある。その水鏡を中心に人が集まり、この家を包む自然や移りゆく季節、さらには人の心までもを映し出す。そうした精神性を内包することで、この家ならではの美しさや、気高さを宿したいと願った。また三沢の多雪地域にあって、冬季、屋根に積もった雪を解かす意味でも、この水鏡がその役割を果たしていく。

<中庭の水鏡から和室棟を望む>

<つづく>

(前田)