在掌(鮨さかい別店)竣工3

入口からアプローチを進み、ワインセラーを回るように店内へと導く。アプローチはセラーからこぼれる灯りを主たる光源として、全体に照度を落とした。セラーから段を上がり、格子の袖壁を回り込むと店内を望む。

<店内を見渡す>

矩の手に回るカウンターを素地の白木として瑞々しさを際立たせ、壁面の黒に合わせて、木肌に赤みを少し加えて取り合わせた。黒も場所ごとにテクスチャを変えたことで、反射光で色の見え方が変わる。その静かな違いが深みを与えたようだ。板場を囲むようにカンターが取り付き、握り手の一挙手一投足が鮨屋の顔となる。天井は細格子を55㎜ピッチでリズミカルに割り付け、照明スポットを格子の間に挟んで光源を隠しつつ、照度を確保している。

<カウンターから板場を見る>

板場には2人の職人が立つことから、板場背面に焼き台を2台据え、それぞれに場所を分けて確保した。光源をカウンター上に集中させることで、限られた空間に広がりを与え、カウンターを際立たせた。客席の背面は手荷物収納に充てたが、壁一面をマホガニーレッドの面材で整え、艶をもった表面に静かに客席が映り込む。

<客席から中庭を望む>

また客席後方は、我逢人と同様に中庭に面している。奥の壁面まで3。6mほどあるが、壁に水が流れて静かな滝となり、夜にはライトアップされて華を添える。カウンターの白木と障子の白が、壁面の黒と対比して輝きを演出し、黒が持つ穏やかな暖かさが全体を包み込む。小さな空間だが、結果的に個性的な空間に仕立てられたのではと思っている。

<板場の天井を見る>

今回の施工では、福岡で13年前に作った「料亭嵯峨野」の時のメンバーが参画してくれた。狭い空間のなか、密度を求めた設計に対し、持てる技術を遺憾なく発揮してくれた。設備に関しても、これまで3店を共にしてくれた面々と取り組みことができ、安心した意思疎通が出来たことも幸いだった。

既に7月から開店しているが、若い客層にも喜ばれ、連日盛況と聞いた。これまで3店を通じ、堺さんとさまざまに話をしてきた記憶が、こうして形として残ったことを思うと感慨ひとしおである。ミシュランの称号は、鮨に掛ける堺さんの熱い想いと、次代を育てる責任感が、誰よりも深いことの証しだと思っている。

終わり(前田)

追、HPのworksに追加しましたので、併せてご覧ください。

前田伸治 暮らし十職 一級建築士事務所 (kurashijisshoku.jp)