和室棟はこの家のひとつの中心である。正面玄関からも西玄関からもアクセスでき、この家のハレの場をつかさどる。3室つなげた部屋をと施主から聞いたとき、大きすぎないかと不安に思った。この地の本家として、節目の時には親類縁者など多くの人が集まり、また代々の家を守り伝える使命感を承って納得した。ハレの場にあたって、南面して中庭を、北に面しては北庭と接し、南北を庭で挟んだ開放感で整えた。
<和室、広間床を望む>
各部屋を襖で区仕切れるようにはしたが、3部屋を通して使うことを主として、天井の意匠でそれを象徴させた。工事が始まってから、大山建工からの申し出で、秘蔵している杉中杢板を提供いただくこととなった。大きい材で、幅80㎝、長さ9mの板4枚、同じ木の長さが若干短い8枚の天然乾燥材で、それを受けて書き直したのがこの意匠である。恐らく樹齢150年超の杉の巨木から木取りしたものだろう。これも南部の杉で、大工が気を吐いて手鉋で仕上げた。無垢板なので反りや木口割れを心配したが、乾燥状態も良く、3室通しの天井で見せる豪胆な意匠となった。
<広間、床を見る>
この天井板を生かすよう、照明を中央に埋め込み、部屋境の板欄間も成を低くして、天井の意匠を損なわないようにまとめた。西を向くと和室としての広間の構え、東を向くと仏壇を置いた仏間の構えとして、向きによって用途を変えられる。広間には炉も切って、茶の湯にも供せるように設えた。
<和室、東の仏間と北庭を望む>
和室の入側から中庭の水鏡を見る。正面の妻を見せた屋根が両親のLDKにあたり、妻面が北を向くことから積もる雪を想定し、木連格子(きづれごうし)を妻一面に張った。南からの日差しが水面を反射させ、この入側の軒裏を照らし出す。小さな風で水面はさざめき、ゆらぐ水が光に動きを与えてきらめく。軒裏は杉柾板を底目に張り、和室に座して綺麗に軒裏が映るよう軒高を決めた。
<和室入側から中庭を望む>
水鏡は、夕暮れ時ともなると室内の灯りが水面に映り、幻想的な美しさを醸し出す。この地は井戸水が豊富に出るところで、こうした試みが具現化できた。水を湛えた穏やかな佇まいだが、揺らめく水面は見る人を飽きさせず、堂々とした迫力さえ感じる。
<和室前の水鏡を通して東LDKを望む>
この建物は、材料の全てを原木から木取りしたが、杉だけでも樹齢100年超のものを200本以上使っている。すべてこの地域の南部産の杉で、この建物に関わる木材すべてを木取り、木づくりして整えた。地元産で揃えることで、色味も揃い、長尺ものも自在に取れ、杢目も欲しいように木取ることができる。加えて梁や胴差し、天板などの赤松材も同様に原木で調達し、大径木から木取るメリットを最大限に生かすことができた。これも施工に尽力された大山建工が、長年培ってきた地道な努力のたまものであり、大工としての技術力に加え、原木を見立て、自らで木取れる目と力を養ってきたことの証である。こうした家づくりを、いまも励行している真摯な姿は称賛に値しよう。
このような機会を与えてくださった施主に、この場を借りて厚く御礼を申し上げたい。当初の工期より1年近く延びたにもかかわらず、携わる職人を大切に、暖かい目で見守っていただいた。打ち合わせにも欠かすことなく参加してくれ、要望を的確に伝えて頂いたことで、我らの考えも伝えられ、意思の疎通を滞りなくできたことが、完成度につながったと思っている。建築と、それを取り巻く庭を、すべて設計監理することの重責は承知していたが、いまはやり切った充足感に包まれている。
次項に、この仕事を通して考えてきた数寄屋への雑感を記して締めくくりたい。
<つづく>
(前田)