茶陶の工房、茶室<竣工5>

躙口を開けると正面に床を望む。内部は客座3畳に点前座1畳、全体4畳の上げ台目切りとした。客座が深3畳だと給仕口を設けたいところだが、工房のスペースを侵食することから、上げ台目切りとして、茶道口と給仕口を兼ねて亭主の出入口とした。

<躙口から茶室を望む>

5尺床の床柱に赤松皮付丸太、相手柱に档丸太、床框は杉磨き丸太入節で、床前の廻縁には香節小丸太を入れた。中柱は、直の赤松皮付小丸太を立てて取り合わせている。床前の平天井に点前座の落天井、躙口前の3尺は屋根裏を表した掛け込み天井として、おとなしく整えた。材料は長年付き合っている京都の京北町で揃え、材料選びには施主も同行して貰った。毎回京都まで足を運んで選んでいるが、思った寸法通りのものと出会うことは少ない。しかしこの寸法選定は極めて大事で、とても他人任せにすることはできない。種々の材が取り合い、それぞれの役割を担いつつ、全体として響くことを目指せば、けして妥協は許されない。幾度か通うなかから材の見どころを定め、用材との対話から建築を作っていく大切な時間である。

<床前から点前座を望む>

しかし、年々材料が揃わなくなっているのも事実である。特に天井などで使う黒部杉のノネ板は危機的状況で、こうした普請がいかに少なくなっているのかを思い知らされる。需要と供給のバランスといえばそれまでだが、林業家の労働力を社会が顧みていないのも確かである。

柱には杉磨丸太を立て、各々の柱には面ツケをして表情を付けている。面ツケについては長くなるので省くが、自然のものに人の手が加えられることで、材がより人に近い存在になっていくのが、主たる理由といっていい。こうした普請の木づくりでは欠かすことのできない工程で、茶室の中に座った感覚を思い描きながら、一本一本に面をつけ表情を与えていく。それは楽しくもあるが、丸太に刃を立てるのは緊張する瞬間でもある。

<点前座から客座を望む>

茶道口の外には水屋を設けている。2階の立礼席へ向かう階段下になるが、茶道口への廊下の戸を閉めると水屋を隠せ、雨天などで露地を使いづらい時は、この廊下伝いに客を席に招じ入れられる配慮でもある。廊下の床板は、施主のたっての希望で、栗ナグリ板を張った。

<廊下に面した水屋>

最初に設計にあたって言われたことがある。「我が家代々の家業をいかに守り伝えていくか、それが今回の計画の目的です。茶室のことはあくまで副産物と捉えてほしい。確かな工房を作ることが、私たちの使命なのだ」と。これまで老舗と呼ばれる方々とも仕事をご一緒してきたが、改めてお家を背負う重さを、肝に銘じさせられた。

私も初めて見たが、お家に伝わる陶器の炉檀があった。3代目が焼かれたものと聞いたが、さすが陶芸家のお家である。竣工を前にして現場でそれを納めたとき、画竜点睛を見た気がした。

終わり (前田)

追、HPのworksに追加しましたので、併せてご覧ください。

前田伸治 暮らし十職 一級建築士事務所 (kurashijisshoku.jp)