シアタールームから中庭の水鏡を見る。施主のたっての要望でシアタールームを設けた。大きな家だが、庭に面する外周は限られる。プライベートな個室も数があり、加えてパブリックな空間を南面させたいと思うと、外に面するのは難しい。そこで用途から考え、日差しは必要なく、景色に左右されず、音響が洩れない、それらを勘案し、中庭に突出させてはどうかと思い立った。
<シアタールームを見る>
こうして中庭の水鏡にせり出すように設けたが、出来てみると、ここはまさに水に浮かんだ部屋で、水が揺蕩う(たゆたう)姿を楽しめる空間となった。映画鑑賞や音楽に興じられるのはもちろんのこと、この中庭の雰囲気を存分に享受できるところとなった。内部は音響に配慮し、勾配天井と平天井を組み合わせ、杉羽目板を張って仕上げた。左手の丸窓奥が応接室になっていて、ガラス越しに北庭の緑も目に入る。
<西玄関を見る>
西玄関の土間からホールを望む。外のポーチから続く勾配天井をそのまま登らせ、玄関土間から玄関ホールまでを通し、開放感あふれる空間とした。若い家族の玄関として、和の制約にこだわらず、伸び伸びした大らかさを表した。ここからは家の奥までを見通すことができ、中庭の奥行感が一気に望まれる。
<西玄関ホールを見る>
この玄関は東を向いており、高窓からは溢れる朝日が降り注ぎ、大きく吹抜かれたダイナミックな空間が、水鏡の静謐さと対峙する。左手の奥は応接室となって、仕事関係の来客にも充てられることから、ホールもゆとりを持たせた広さとした。
<西玄関ホールから土間方向を見る>
玄関を見返す。冬季は土間境のガラス戸で仕切って寒気を防ぐ。天井の杉柾板の流し張りは、高窓からの光を受けて木肌を鮮明にさせ、高く上る空間構成をより強調させる。また、玄関入口の格子戸とともに、ホールに面する建具は吹寄せの横桟で統一し、意匠を整えた。玄関は家族が日々通る場所であり、外出や帰宅時など、家人の気持ちの転換点になるところから、澱みない清らかさで迎え、送り出したい。
<西玄関ホールから中庭の水鏡を望む>
<つづく>
(前田)