名古屋で依頼を受けた茶陶の工房、茶室の工事が竣工を迎えた。設計の依頼が5年前で、それから計画を詰めてきたが、コロナ禍に突入するなど、工事に至るまでには紆余曲折があった。新築した工房と茶室の工事を終えたあと、既存家屋の修理や茶庭の露地を整えたりと、付随する工事を終えて、先日漸く完成した。
<敷地北側道路からの遠景>
明治初期にこの地で作陶を始められて以来、現在5代を襲名する茶陶の名家である。この辺りは名古屋でも古い住宅地で、一区画当たりも大きく、財界人などの名家が点在する閑静な場所である。区画が大きいこともあって、家ごとに大きな庭を持ち、緑豊かな住宅地が展開する。このたびの依頼は、既存の住宅に接続して建てられた工房を取り壊し、新たにその場所に工房と茶室を設けたいとの要望だった。また当代のご子息が戻ってくることから、その住まいを兼ねて3階建てとして整えたいとのことだった。
<建物全体を望む>
敷地はかなり大きいが、現存する住居と接続させること、南庭にある既存の窯を残すことを考えると、建てられる場所はかなり限られていた。敷地は北と東に道路が取り付き、北側道路に面して表門が開かれる。工房への出入りも、この北側からを考えると、設計の与条件としては厳しい制約だった。
最初に敷地を見たとき、真っ先に目に映ったのが紅葉だった。道路まで覆うほどの枝ぶりに、小さな葉が色づく美しさは格別だった。この紅葉は、明治初期にこの地に住居を構える以前からの自生のものと聞いた。この紅葉を生かしながら3階建てで生じる建物高さを、いかにこの地になじませるかを考えていた。
つづく (前田)