扇ヶ谷の家<竣工1>

鎌倉駅から徒歩5分ほどの閑静な住宅地に、4人家族が住む家を依頼された。鎌倉は周囲を山に囲まれて自然が豊かに広がり、どこにいてもそれらを享受できる。近年、観光地として多くの人がこの地を訪れ、主要な道は歩く人波で溢れているが、ひとたび路地を入ると穏やかな佇まいの家が点在し、風致地区に相応しい恵まれた環境に包まれる。

 <南側道路より建物を望む>

ご家族で海外赴任されているさなか、日本に戻ってくる時期を見越しての依頼だった。ご夫妻とも木の家を望まれ、当初はメールで要望を聞いて基本設計を書き出すという特異な形で始まった。時はコロナが流行りだした頃で、打ち合わせもままならず、ネット会議で話したりと、意思疎通が難だった。

このたびの敷地は、ゆったりと山裾を上がるような坂道が南に取り付き、住宅が建つ平地のすぐ裏手が小高い山になっている。その頂き近くまでが敷地に含まれ、けして高くはないが、中腹まで登れば周囲の山並みから海までが望める。また、敷地は南側に向けて扇を開いたような形状になっていて、それらをどう生かすかが課題だった。

<南庭から建物を見る>

着工にあたり、使う木を見てもらうため、帰国するタイミングに合わせ、家族そろって青森まで足を運んでもらった。とても興味深く見てもらい、木の年輪の細かさや肌合い、香りまでも存分に感じてもらった。これから家族で住む家を、家族のみんなで作っていく覚悟が見て取れ、会って話さねば伝わらないこと、感じてもらえないことの大きさを改めて実感した。それがひとつのきっかけになったようで、互いの意思疎通も順調になった。コロナの時期は、その意味でも建築を作ることの意義を再認識させられた。

<建物全体を俯瞰する>

次回からは建物を紹介していこう。

(前田)