福岡で茶美術を商う店を作った。
かねてからの依頼主の希望もあり、曽祖父が店を起こした天神で店を開きたいと、場所を捜し歩いていたという。18坪ほどの小さな店だが、彼の思う茶の湯の世界を、ぜひとも実現したいと、たっての依頼だった。
<店全体を望む>
現在の茶の湯は、どうしても多人数を招く大寄せの茶会が大勢を占め、静かに客を招いて、主客が心行くままに語り合う茶の湯からは、遠ざかる傾向にある。それが悪いわけではないが、道具が主役の客寄せっとなっては、茶会本来の意味も薄れてしまう。道具が取り持つ、人と人の交わりを主眼においた店づくりをしたいと望んでいた。
<外部に面した違い棚>
店としては、来る人と話しながら道具を提案、紹介し、取り合わせや見立てを探りながら語らえるカウンターを中心にした店部分と、加えて、茶の湯の経験がない人にも、茶に触れてもらいたいとの要望から立礼席を併設している。立礼席は多様な使い方も目論んでいて、若手作家の展示会、各種小さな講演会場として、またワークショップなどを通した茶の湯の啓蒙活動にも使えるようにと整えた。
茶道具の数々は美術品としての価値もあり、精魂込めて作られた数々に直に触れてもらい、暮らしに光彩を添える存在としても、また豊かさを奏でるラグジュアリーの一品として手元に持ってもらいたいと、違い棚をあしらって展示している。
<立礼席から客を迎えるカウンターを見る>
客と語らうカウンターは「栓」の材で、色々と探したが、この木の持つ力強さと迫力に勝るものはないと、これに決めた。カウンターには丸炉を埋め込み、亭主が茶を点てながら客と語らう。またこの椅子も特注で作らせてもらったが、ゆったりとしながらも、背筋が伸びる品格を造形化してみた。
開店して2か月となったが、滑り出しは好調のようだ。茶の湯は決して堅苦しいものではなく、人と人がゆったりとした時間を作って、互いに気持ちを通わせる豊かなもの。そのような茶の湯をここから発信してもらいたいと望んでいる。
(前田)
施 工 ヤマコー株式会社
建 築 平松装備株式会社