小さな建築でもあり、室内はワンルームとしながらも、奥に引込戸の障子を立てて、緩やかに寝室空間を仕切っている。南側は全面に開いた高さ2400ミリの大開口として、室内に雄大な景色を余すことなくパノラマに取り込む。
<ウッドデッキより箱根に続く山並みを見る>
軒裏に張った杉小幅板は、内外の区別を感じさせないよう、室内まで伸ばして一面に張った。木の素地の表情を生かしたいと、室内は杉の白太部分だけを取り合わせ、静かな杢目の美しさが際だつようにと目論んだ。
床には赤松の無垢板を張り、75ミリの段差で小松石を張ったテラスへと繋がる。テラスには幅3m、長さ5mのウッドデッキを、テラスと同レベルで大きく張り出し、南面する景色へ手を差し伸べるがごとく、視覚的にも景観を室内に誘う。
ここに座ると、まるで周囲の景色に浮かんだような静寂が包み込む。
<室内を見る>
キッチンはアイランド型とし、背面を壁面収納として少ない収納場所を効率的にまとめた。
ワンルームとしたこともあり、奥に浴室などのサニタリーを付属させ、浴室にはガラスを多用して景観とともに光を招き入れた。
駐車場となる建物北側は、堅牢な意匠にとタイル張りの壁とし、上部をガラススリットにして軒裏とを遊離させ、屋根を浮かせている。
<浴室を見る>
設備的には前面道路との取り合いからGLを600ミリかさ上げしたことを利用し、床下を使った全館冷暖房の空調空間に充てた。また屋根に載せた太陽光発電を活かし、蓄電池、EV車用の充電設備を備え、開口部には外付けブラインドを設けることで、全面ガラス張りの室内環境に備えている。
この冬でも、空調をつけずとも夜まで暖かく過ごされたと聞いた。
<建物の夕景>
建築の置かれた場所性を生かすことが、より建築を生かすことと、これまで取り組んできた。その点、どのような環境であろうと取り込める要素はある。それは建築とふれあうまでのアプローチから始まり、どこでそれらを取り込み、どのように見せていくかの連続でもある。
極めてシンプルな間取りながらも、この雄大な景色を前にして、その思いは一層強くなった。
(完)
(前田)