北側道路からのアプローチと並行して、下段の敷地からのアプローチも用意している。下段の敷地は未完成ながらも果樹園を想定し、来客に対しては歩いて果樹園を巡りつつ、苑路の木段を登りながら上段に建つ建物へと誘導する。
<苑路木段を上ってアプローチする>
屋根は緩やかな勾配の片流れとして、軒裏を美しく見せるよう杉小幅板を全面に張っている。軒裏の意匠はそのまま室内にも及び、内外一体の空間が包む。下段からアプローチする客の視線には、この軒裏の意匠が自ずと建物へと誘ってくれるだろう。
<建物を南側から見る>
軒先を薄くしてエッジを利かせ、軒の裏板を折りながら張った。大工としては手間な造作だが、小さな建築においては重要な仕事である。
南に面しては大きな土間空間を作り、室内から続く縁側のような多目的な空間を用意した。柱は杉磨丸太の細々としたものとし、室内からの景観を妨げないように配慮し、床にはランダムに割られた小松石を一面に張った。地元でとれる小松石も、通常のルートでは高価なものだが、施主の懸命な交渉で、産出する山から直に譲ってもらうことができたのは幸いだった。庭師が総出で張り込みしてくれたが、予想外に手間がかかった。現場の奮闘のたまものである。
<南側テラスを見る>
北側道路からのアプローチも考慮し、当初の敷地面より60センチほど全体にかさ上げして地盤を構成したが、その甲斐あって眺望も一段と素晴らしいものとなった。
(つづく)
<テラスのウッドデッキを介し太平洋を望む>
(前田)