写真正面奥の建物が、会席「大清水」である。
この建物は飛騨山地、富山県八尾町から昭和50年に移築したもので、2棟の建物の材料を用いて1棟に仕上げた。合掌造りの大きな建築である。
<会席「大清水」への表門>
かつて通用門としてあったものを大清水の表門として設え、飛石から延段を伝って玄関へと導く。
大清水は会席料理の店として再生し、一日3組、10人までの限定予約制で開く。
客の好みや季節を入れ込み、この地の旬の素材をふんだんに用いて、料理長がその人のために腕を振るう。
玄関構えを新設し、庭を歩く人からのアイストップとした。建物からすれば民家的な手法がふさわしいのかもしれないが、そうした繊細な料理のもてなしをされることから、数寄屋色をにじませて設けている。玄関までの道のりには延段を霰こぼしでまとめ、既存の庭をゆったりと歩かせることで、世俗を離れて静寂な世界へと導く。白木だとなまめかしさが出ることから、若干の色付けを施してまとめた。
<大清水の玄関構え>
元来この建物は、雪深い地域の合掌造りとして建てられたこともあり、豪雪に耐えるたくましさがある。そこに軒の低い繊細な玄関を取り合わせることで大仰さを抑え、静かな佇まいを添わせて庭とも馴染ませている。
土間に続いて、囲炉裏を切った大きな部屋から主座敷へとつながり、茶室も付属している。使われる材料も木柄が大きく、豪雪地帯ならではの豪壮な趣が全体を包んでいる。
この建築を存分に使って、さまざまな部屋で、その人のための献立で食を供する。私自身はまだここに客として足踏みしていないが、近々客となって遊ばせてもらおうと思っている。
調理場はオープンキッチンとした。遠目ながらも料理をする人の顔も伺え、作り手の顔が見えることで、温かな食の場を創出したいと話し合った結果である。
<大清水玄関土間>
このかまぼこの里は、風祭という場所にあり、小田原と箱根のちょうど中間点にある。小田原から来ると、この風祭手前で途端に空気が変わる。箱根へ続く山並みを間近に見ながら、瀬音ゆかしき早川の流れに触れると、まさに自然に包まれている実感がある。
そんな自然に身をゆだねながら、この里を感じてもらえれば幸いである。
(完)
<囲炉裏の間>
<大清水主座敷>
<大清水茶室>
(前田)