慧然寺境内整備<竣工6.>

庭は京都の吉田造園が手がけた。
吉田さんはいつも穏やかな表情で、こちらの意図を丁寧に聞いてくれる。私は元あった樹木の状態を知らずに設計に入ったこともあって、大部分を吉田さんの目に託した。

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         <書院入側から主庭を通して本堂を望む>
本堂前の庭や、この欄でも紹介した中庭、坪庭、また墓地周囲の植裁など、境内整備に拘わる全てを網羅して纏めてくれた。なかでも主庭は、本堂と書院、寄付から望む大切な空間で、当初は禅宗らしく枯山水にしようと皆で思っていたらしいが、私は樹木を入れた穏やかな庭にしたいと申し入れ、そこに梶を切って纏めて貰った。
竣工間際まで最後の手入れをされていたが、遠忌が始まる直前、一斉に新緑が芽吹いてきたのを忘れることができない。
木々がきちんと根付いている何よりの証左だろう。

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                <本堂正面を望む>
本堂は、新たに舞良戸と障子の3本溝で外周を構成し、本堂前には階と濡縁を設けた。
外部の漆喰も塗り替え、内部に露出していた空調機も屋根裏に新設して全体を整えた。また山門も基礎が充分でなかったので、今回の工事で脚下を固め直し、老師の希望で鬼瓦も新たに新調した。
工事内容からすればあまりに短い工期だったが、最後はぎりぎり遠忌に間に合わせることができた。

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              <本堂内部 主庭を見る>
本堂を再興された前住の老師に対し、いかに寄り添う形で今回の境内整備ができるか、というのが和尚の一貫した姿勢であった。この思いと、お二人を結ぶ絆の強さが、全体の形を導いたのだろう。
その意味でも常に本堂が中心であって、本堂前庭の大きさを充分に確保しつつ、隣り合う庫裏は本堂の棟を超えないよう、また新たに作る書院も、けして本堂を圧迫せず、相応しい距離感を保ちながら全体を構成してほしいというのが命題だったと思う。
最初の縄張りのときから老師にも同席を願い、木材検査から上棟式、また工事途中さまざまに激励の訪問を頂いた。工事関係者揃って恐縮しながらも、笑顔が絶えない現場となった。
これもひとえに、和尚の熱い気持ちがそうさせたと確信している。この心持ちが多くの職人を奮い立たせ、気持ちをひとつにしたのだろう。

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               <境内全体を俯瞰する>
 
先日、国会の農林部会に属する国会議員と林野庁、国交省の方が視察に訪れ、熱心に見ていただいた。都内は防火に関する規定が厳しく木造が絶えつつある昨今にあって、現行法規の中でも、活用の仕方でこれだけのものができること、国産材でこれだけの建築が充分できることに感心していた。
そして何よりも檀家衆が喜んでくれたことが嬉しかった。「このお寺の檀家でいることを誇りに思う」、と熱く語ってくれた言葉に思わず感極まった。
寺院の仕事にかかわる重みを、改めて思い知らされた仕事だった。
設計監理  前田 伸治
        暮らし十職 一級建築士事務所
施 工    株式会社  大山建工
                大山重則  棟梁 中里政義
庭 園    吉田造園  吉田 充
家 具    ヤマコー株式会社  村山千利
塗 師    山中塗   前端 春斎(前端文化振興財団 無限庵)
墓地改修  AB企画開発株式会社  阿部常夫
引 手    清水焼   石田 滋圭
  
  (前田)