伊勢の町家「伊賀くみひも平井」<竣工3>

ひと月間続いた出張も先日終わり、この数日は机を前にしている。
気づけばすでに11月も終盤で、庭のハナミズキも葉が落ち、早や師走の足音が聞こえる候となった。
伊賀くみひもの続きを。

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                <正面から外観を望む>
道路から向かって左は、おかげ横丁が出すジャムの店となる。町家の形態でいうと、隣の五十鈴塾を見てもらえばわかるように、ここは蔵になるところ。そこをジャムの店にということで、擬洋風の洋館とした。
外観は、下屋の軒を通して町並みに貢献し、2階は吹抜として方形の屋根を載せる。頂部は地域名産の蓮台寺柿を象り、台座には四季の果実を取り合わせて彫ってもらった。これも三州の鬼師、梶川亮治の手による。
外壁は伊勢に古くからある、いわこ壁に倣い、軒上行灯をつけてささやかな看板としている。

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              <ジャム店 吹抜内部を望む>
内部はくみひも屋と一転、洋館の展開として八角の平面を吹き抜き、西の出窓からの明かりが注ぐ。吹抜の壁面には、やはり果実をかたどったレリーフを掲げ、床はテラコッタとした。
ここは手作りのジャムを販売する傍ら、ドリンクサービスもしている。中庭を望む一角にテーブルを置いて、町家の雰囲気を味わいながら楽しむことができる。
小さな店だが、居心地良い空間を求めた。

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            <ジャム店 内部から中庭を望む>
2階も座敷にしているが、現在のところ使い道は決まっていない。
東側は五十鈴川の対岸に広がる山々を眺め、西側は神路山を望む。小高い山々に囲まれた宇治という場所柄を改めて感じる。
入り組んだ町家の平面だが、こうしてみる瓦屋根の美しさは格別である。
いつまでもこの町に、甍の波が絶えぬようにと願うばかりである。
  (前田)

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             <2階東側座敷より景色を望む>

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             <2階西側座敷より景色を望む>
設計監理   前田 伸治
         暮らし十職 一級建築士事務所
施 工     高山建設株式会社
家 具     ヤマコー株式会社  村山千利