課題だった住宅の実施設計を書き上げ、青森まで材料を見に行ってきた。
年明けから数年ぶりの風邪を引き込んだり、携帯を壊したりと散々だったが、何とか気を取り直し今年も始まった。
<あげ家された庫裏>
福島の三春にある福聚寺の庫裏を進めている。
江戸後期に建てられた茅葺きで、書院を備えた平屋建ての建築があった。
その書院を残し、使える架構を生かしながら庫裏の機能を入れ込み、2階建てとして纏めようという複雑な仕事に取り組んでいる。
昨年末に既存の書院を含む矩体をあげ家し、起工式が行われた。
年明けから基礎を打ち、あげ家した建物を新たな基礎の上に下ろし、建築工事を始める予定でいた。
ところが「基礎を始める前に話を聞いて欲しい」、和尚からの言伝てで現場に行った。そこで、かねてからの知り合いという矢野智徳先生を紹介され、興味深い話を聴くことができた。
現場は雨が続いたこともあってぬかるみがひどかったが、これは土がきちんと息をしていないことが原因だという。境内には三春の滝桜の流れをくむ、立派な枝垂れ桜があるのだが、ひいてはこの桜にも、このままだと悪い影響を及ぼす。今回の工事にあたり、是非とも周辺の土壌改良をしたらどうかとの提案だった。
矢野さんは全国各地に生息する日本の原野を見て回り、これまで永きにわたり、如何に自然が生き生きとした生態系を営んできたかを研究されてきた。その結果として、土が呼吸をするという、今まで誰も考えてこなかったことに着目された。
私の理解がまだ中途半端で、うまく伝えられないが、試しに境内地の一部に先生がいう施術を試みたら、翌日、樹木が新芽を噴いたという。土が呼吸をし、土中に空気を貯めることで水分が調整され、樹木も生き生きとするらしい。
その話は、まさに目からうろこだった。
<矢野先生とボランティアによる土壌改良>
早速、矢野さんが連れて来られたボランティアの人たちと現場が相まって、土壌改良が始まった。
とかく私たち建築人は、地盤を固めることだけを注視し、大地本来の姿に意を払わずにいる。これは真摯に耳を傾けるべきことだと、大いに啓発を受けた。
旧臘の起工式では、住職である玄侑宗久和尚の香語が掲げられた。
「匠、心合わせ集まって艱難を絶す」、改めて心を合わせ普請に望まねばと気持ちを新たにしている。
(前田)
<玄侑和尚による香語>