南部の家<竣工5>

リビングは一転して構造美を求めた空間とした。
屋根裏を大きく開いて架構の梁を見せ、堅牢な木組みそのままを意匠として現した。登梁は赤松、受梁には欅を用いた。受梁の欅は長さが10mとあって探すのに難儀をかけた。

画像

           <リビングからダイニング、キッチンを望む>
リビングは全体で30畳強の広さがあり、ダイニングキッチンが付す。
大きく取った開口からは庭園が間近に迫る。境界に回した塀は高さを抑え、ソファーに座って遠景の丘陵が借景となるよう間合いを計って決めた。敷地に合わせて、建物も東西に長く取って各部屋を南面させている。従ってどの部屋も庭と接し、外部と密接に交わりながら豊かな空間を獲得するよう工夫した。
池に面して和室前から濡縁を回し、低い手摺り越しに池面が接する。庭は高低をつけない平庭とし、塀までの距離を有効に使うよう植裁の配置に意を配った。

画像

                 <リビングから庭を望む>
北側の廊下との境には、大きな嵌め殺しの格子を立て、廊下空間をも室内に取り込みたい。キッチンはアイランドが希望で、子供たち家族が揃うときには、皆で囲んで料理をするという。普段は夫妻だけだが、家族の行事には多くの子供たちが集い、この家を賑やかに飾るのだろう。
柱には杉を、床には赤松、天井には杉の羽目板を張り、極力色味を揃えて張ることで、静かな意匠を心掛けた。
また濡縁上には下屋を差し掛け、座るとその軒裏が目に入る。この軒先で景色を切り取ることで、借景が一層パノラマに写る。

画像

             <ダイニングからリビングを見る>
建築だけではなく、庭や外構一式を整えるのは大変なことだが、長い時間をかけてでも、こうして全てが整った空間を見ると、改めて建築の力を感じる。ここに展開する日本の空間と造形は、携わった職人一人ひとりにとっても、大きな自信となったに違いない。
今回、断熱では初めてのことを試みた。正確にいうと断熱ではなく遮熱なのだが、建物全体を床下まで遮熱シートで覆っている。まだ竣工一年に満たないが、その効果はかなり高く、寒冷地での新たな展開が期待できそうだ。これも最後に付記しておきたい。
こうした建築を作る機会を与えられたことに、心から感謝している。
  (前田)
設計監理   前田 伸治
         暮らし十職一級建築士事務所
施 工     株式会社 大山建工
庭 園     福清緑化 加藤孝志
家 具     ヤマコー株式会社 村山千利