綱渡りだった毎日が、少しずつだが落ち着きを取り戻しつつある。
世には同時に数件の仕事をこなす強者もいるが、身体には宜しくない。
振り返れば、若い頃より仕事をしているようで、これでは身が持たない。
せめて一日、休みが欲しい・・・
<南側からの俯瞰>
施主の要望は、池と流れがある庭と一体になった住まいだった。
東西に長い土地を生かすため、池を中心に、南面する建物を雁行させ、各所で庭と交わるプランを提示した。
奥さまが茶の湯をたしなんでいることもあって、客間は数寄屋として広間を用意し、巣立った子供たちが集まっても、充分な広さを持つリビングを中央においた。パブリックから、次第にプライベートへと空間が移行し、寝室は玄関から最も遠い。周囲を塀で囲むことで静寂な環境を作り出し、駐車場に接した日常使いの内玄関のほか、客用の正式な玄関も設けた。
それらを連ねると、間口に相応しく納まり、それほど苦労をせずにプランが出来た。
<南西角からの俯瞰>
当初、これほどの建物になるとは施主も思っていなかったようで、図面を提示したあと暫く考え込んだらしい。2度目に会ったおりも、まだ踏ん切りがつかぬ表情だった。
強いるつもりはないので、少し時間をおこうと思ったが、急遽これで行こうと決めたようで、後日電話が掛かってきた。細かい修正はあったものの、概ねこの時の提案が受け入れられ、実現を見た。
設計過程では、施主の思うことを取り入れて考えるのは当然だし、これまでの仕事でも、書き直しが数度にわたっても、苦もなく提案を繰り返してきた。
ただ、要望だけが独り歩きをすると、初回に提案するコンセプトは必ずといっていいほど削がれてしまう。住宅は長い時間軸で考えねばならないが、いつも迷うところである。
このたびは、最初にこの土地を見て感じたままに形が生まれた。
依って全ての造形は私の責任であるが、気持ちのいい仕事になったことは疑いない。
(前田)