三重県建築賞受賞

いよいよ夏の到来です。
改めまして暑中ご機嫌お伺い申し上げます。
事務所は相変わらず忙しく、急ぎの東京の仕事に、多くの人を巻き込んで実施設計を纏めております。8月盆明けまでを目標に鋭意努めて参ります。

画像

               <茶畑から建物全景を望む>
このたび、第35回三重県建築賞において、「伊勢、宮川の里 鄙茅」が三重県建築賞会長賞を受賞しました。先の6月30日が授賞式で、施主、施工者とともにハレの場に臨みました。
この建物は伊勢に隣接する多気町に位置し、宮川の清流を望む場所に建っています。
遡ること今から6年前、初めて話しを頂いて現地に赴き、建てるならこの場所しかないと定めて、そこから絵を描いて進めてきたものです。
周辺の田畑や茶畑をそのままに、取り囲む美しい自然を存分に受け入れ、里で暮らす人々の営みに寄り添った建築をと提案したものです。都市計画区域外ということもあり、開発を含めて随分と時間が掛かりましたが、出来てみると、かつてからこの場所にあったかという田園風景を作り出しています。

画像

            <椅子席から対岸の山と宮川を望む>
建物については、すでに本欄で紹介しておりますので、詳しくはそちらをご覧ください。
今も多くの人が訪れていただいているようで、私どももホッとしております。
審査講評を下記に載せましたので、こちらもご高覧いただき、皆さまからの厳しいご批評も戴ければ幸いです。
現代に生きる木の建築を作る。
これを信条に、これからも邁進して参ります。
今後とも変わらぬご芳情のほど、お願い申し上げます。
  (所員M)

画像

                <離れから宮川を望む>
審査講評
 会長賞受賞作品は、多気郡多気町の宮川沿いに建つ木造2階建て、延べ面積347㎡の商業建築である。宮川のほとりの田畑や茶畑が広がる田園風景の中に建つ民家風の飲食店である。
 大きく弧を描く宮川の景色を眼下に眺められるように決められた地盤高さ、そして風光明媚な景観を取り込むように川側に椅子席や座敷、離れを並べ、川の景色が望める位置に中2階座敷をスキップさせた構成は、平面的にも断面的にもよく検討されていた。
 これらの飲食フロアに茅葺き屋根が架けられている。当地域の農家の屋根は一般に”さす構造”であるが、34mと梁間が大きいため和小屋が採用されていた。そして奥行きが深いため茅葺きの一部を切り上げた形状とされた。そのため和小屋の組み方や仕口継ぎ手の架構のほか、茅葺き職人と大工の施工手順や納まりなどの調整に大変な苦労があったようであるが、チョウナ仕上げの太い梁などのダイナミックな小屋組や上り垂木越しに屋根葺材がきれいに見える架構に仕上がっていた。また棟飾りに大黒さまや恵比寿さまをのせた瓦葺きの厨房や離れは、母屋や納戸などからなる農家の風情を感じさせる構成になっていた。
 屋根材の茅の乾燥のために壁と屋根の間の面戸が密封できないという事情から空調がほとんど利かないため、床暖やスポットエアコンなどの工夫があってもよいと感じられた。また、都市計画区域外にあるため、大型合併浄化槽の設置や電気水道のインフラ整備に費用を要したようであるが、進入路の仮説的な照明などは当初から設計に盛り込んで計画されると印象が向上したという審査員からの声があった。しかしながら、この作品の特徴は、宮川の景観を借景とした民家風の飲食店を新築したにとどまらず、周辺の田畑や茶畑も購入して積極的に里の風景を保全しようとした点にある。その結果、宮川のほとりに広がる田畑や茶畑に大きな茅葺きの民家が建つ田園風景が創出できていた。
 この作品は、鮎の甘露煮を商う建築主が老舗のような店構えの飲食店に家業を展開させようとした40年来の構想が、土地選定に10年、設計に5年、木材の調達に数年の歳月をかけて実現されたものである。このような建築主の熱い思いに、既存景観の活用と田園風景の新たな創出につながる茅葺き屋根の飲食店の設計で応え、茅葺き職人と大工職人らが協働した施工によって結実したものであり、会長賞に値する建築作品であると評価された。

画像

                     <川側夜景>