昨日の雨で桜も散りだし、いよいよ新緑まぶしい季節の到来である。
八戸、福島から伊勢に戻り、おはらい町の伊賀組み紐店の引き渡し。
その後、博多に移動して打ち合わせをし、昨晩戻った。
更新が滞ったが、茅葺きの家の続きを。
<囲炉裏の間から離れを見る>
早くから離れを作りたいと話しをしていた。
川に最も近く、周囲と一体になった佇まいは、この宮川沿いの自然を思いきり満喫できるに違いない。3方を開き、川の崖地へ乗り出す勢いで配置した。
計画では、この離れも茅葺きにと思っていたが、予算の関係であきらめざるを得なかった。そのため屋根に大きく起り(むくり)をつけ、瓦葺きでありながらも柔らかな姿を模索した。
八角に誂えた小屋梁を縦横に組み、猿頬に面を取った垂木を配る。間を飛ばしているため、垂木寸法を大きくしたが、猿頬にすることで見た目の太さを軽減し、挫屈への抵抗を大きくしている。
<離れの間から周囲の景色を望む>
上流から下流へと向かう流れが全て見通せ、障子越しにも川音が耳に届く。崖地に残した柿の木は、季節ともなれば実をつけ近景を飾る。
土表面をクローバーで覆うべく、完成間際に種子を撒いた。やっと発芽してきたが、全体を覆うまでにはまだ時間が掛かりそうだ。
渡りの屋根には、三州の梶川亮治に焼いて貰った恵比寿大黒の鬼が載る。
鮎屋主人のたっての希望で、恵比寿は鯛の変わりに鮎を抱く。何ともほほえましいその表情は、梶川さんの真骨頂だ。
<中2階から川沿いの景色を望む>
茅葺き本体のみせ上部が中2階になっていて、4部屋の座敷が連なる。
ここからも川や対岸の景色が眺められる。梁組が頭上を走り、屋根も近く、重厚な構造が間近に迫る。
茅をいぶすへっついの煙が漂い、かつての田舎屋もこんな風情だったかと想像させてくれる。照明は梁の陰からスポットで出し、空調機も最低限の設えとして意匠を調えた。
さすがに冬は石油ストーブの世話になったが、これからの季節は気持ちいい風が、この家の内外を吹き抜けることだろう。
<茅葺きの小屋組>
初めてお話を戴いた時のことは、今でも鮮明に覚えている。
長い時間が掛かったが、こうして出来てみると、以前からここにあったような不思議な錯覚を感じる。話しを重ねるなかで、いつしかこの地の風景と私らも同化し、里人の営みに寄り添う建築になってくれたのではと感じている。
今も多くの人が訪れてくれているようだが、この地の四季折々の姿と共に、これからも見守って行ければと願っている。
<夜景全景>
(前田)
設計監理 前田 伸治
暮らし十職 一級建築士事務所
施 工 高山建設株式会社
担当 濱野 周紘
造 園 植 甚 浦口 良太
家 具 株式会社 ヤマコー
担当 村山 千利