伊勢宮川の里「鄙 茅(ひなかや)」ー2.

このところずっと出張続きで、今朝久し振りに机を前に座った。
日射しに春を感じる日が多くなってきて、心身が軽くなるようだ。
茅葺きの家の続きを始めよう。

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               <茶畑から建物全景を見る>
辺りの田園一帯すべてが敷地であるのだが、当初からそれらを極力残したいと考えてきた。田畑の織りなす四季の移ろいは、まさに人の営みそのもので、耕作を通じて得てきた知恵の結晶でもある。
建築は市井の中にあって、時に人の欲の間々形作られるが、ここではそうした人の営みにより添う建築を標榜した。
写真からでは想像しにくいが、茶畑の右横がすぐ崖になっていて、清流宮川が流れる。これをどう見せるかが本計画の白眉であり、アプローチからは川の存在を気付かせぬよう慎ましく纏めた。

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                  <みせ入口を見る>
予算の節減もあって、要望される面積全てを、茅葺きの平屋にすることはできなかった。そこで、茅葺き特有の屋根裏の高さを利用し、床をスキップフロアとして空間を立体に纏めることで、建築面積の低減と予算の縮小を図った。
土地の傾斜もあったが、甘露煮を扱うみせは周辺の田畑のレベルに合わせながら、川沿いの景色を思い切って取り入れるべく、川面の床を一段上げて飲食フロアに充てている。
また、通常の茅葺き屋根は内部が暗く、屋根裏はほとんど見えない。
これでは飲食空間としてふさわしくないとの考えもあって、屋根を切り取る目的のひとつは、この暗さ解消でもあった。
周囲の田畑や茶畑からは、日本の原風景といっていい茅葺きの佇まいを見せ、一転川側は、内部からの視線を遮ることなく大らかに開放することで、伝統的な茅葺きという技法を用いながらも現代的な視点で再構築している。

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              <みせから飲食フロアーに向かう>
川や対岸の景色をどのように切り取ってみせるか。
そのため、建物の地盤高を決めるにあたっては、慎重に高さを割り出し、川との距離を計りながら現地で仮設足場を掛けてレベルを検討した。
周りの田畑や茶畑で獲れる作物は、ここで供される食材でもあり、自給自足の一端を担うことで里とともに生きる。
離れと厨房は瓦葺きとしたが、茅葺きに添う佇まいを心掛け、田舎家の大らかさで纏めてみた。
(つづく)
  (前田)