伊勢宮川の里「鄙 茅(ひなかや)」ー1.

茅葺きの家として紹介していた建物が、昨年10月末に竣工した。
伊勢宮川の里「鄙茅(ひなかや)」と銘打ち、いま多くの人を迎えている。
工事に携わった職人らと、旧臘一夕遊ばせて貰ったが、黄昏どきの山川の風景に、いたく感嘆した。

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              <鄙茅 遠景(県道より見る)>
これから数回に渡って建物を紹介していこう。
風光明媚な場所に茅葺きの家を建てたい、というのが長年の施主の夢であった。鮎の甘露煮を商って130年という老舗であり、新たな商いの拠点づくりとして位置づけていた。
ご夫妻で最初に事務所を尋ねてくれたのが今から5年前のことで、初めて会ったにもかかわらず、壮大な夢を聞かせていただいた。果たしてそれは可能かとの疑問もよぎったが、先ずは現地を見てから判断することとした。
場所は、周辺に田畑や茶畑が広がる宮川沿いの里にある。対岸には小高い山があり、その山裾をなでるように清流宮川が流れ、眼下にそれらを望める格好の立地にある。
ただ当時、まだ川沿いは鬱蒼とした林であり、見えるであろう風景を想像するしかなかった。それでも施主ご夫妻の気持ちは熱く、その気持ちにほだされた格好で仕事を引き受けることとした。
要望としては、老舗としての店構えに加え、家業を展開させた、鮎を中心とする飲食を供する店として新たに設けたいという。
家業にとっての宮川はまさに恵の宝庫であり、この地で商いをする感謝を込め、里の人々と共に生きていくという姿を建築としても現していこうと一致した。
田畑や茶畑に囲まれて生きる大地の恵みと、宮川が運んでくれる川の恵みを受け、その清流を見渡せる場所で、人の営みに寄り添う建築の姿を模索してみようと思った。

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              <アプローチから全景を望む>
茅葺きが建つ場所であるから、もちろん都市計画区域外であり、市街地とは異なり、インフラ整備から始めねばならない。
長いスパンになるなと思いつつも、この風景と格闘してみたいと、次第にこちらの気持ちも感化されてきたような期待も感じていた。
  (前田)