串本の町家<上棟>

10月を掛けた実施設計が完成し、先日図面を納めてきた。
その後、数社による現場説明を行い、見積もり依頼を終えたところである。
設計としてはこれがひとつの区切りで、些か胸をなで下ろしている。
気付けば落葉も終盤を迎え、季節は次第に冬へと移ろってきた。

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                 <正面からの上棟風景>
串本の上棟が先日行われた。
雨が続いて心配されたが、当日は天気も持ち直し、期待に応えてくれた。
ここまでが長い道のりで、施主夫妻もさぞや感慨深かったことだろう。
依頼を受けてからでも既に3年が過ぎ、一時は断念されるのではと心配される局面もあったが、夫妻の気持ちは熱く、そのマグマが周囲を動かしてここまで来たのは疑いない。
菓子職人としての技量もそうだが、これまでの過程でも、人として相手を尊重し、その上で自らを重ねる姿勢が徹底していた。作る菓子に伺える品位は、こうした人としての気持ちの持ち方に源があるのだと、改めて気付かされる。

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                  <棟が上がった夕方>
請けてくれた小寺工務店の社長と監督の田代さん、大工の山本棟梁を交え、上棟後に施主が直会を開いてくれた。
これほど難しい仕事とは思わなかったと社長がいえば、岩盤を砕いて埋めた基礎を語る田代さん。二日ほど寝られなかったとこぼす棟梁らと、杯をやりとりしながら喜びを分かち合い、慰労に努めていた。
私も勧められるまま、つい酩酊したが心地よい一会だった。
翌日は、棟梁も早朝から現場で大工を指揮していたが、その仕事には、満更でもないという自負がほの見えて嬉しかった。

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                   <鬼の仮載せ>
先日、焼いて貰った鬼を梶川さん自身が届けてくれたらしい。
施主夫妻も恐縮されていたが、建物にとっても嬉しい出来映えだった。
申年のご夫妻が希望された猿や鍾馗さまもあって、屋根を彩ってくれるさまを想像するだけで楽しい。
工事はこれからが佳境だが、現場へ赴く楽しみが少しずつ大きくなってきた。
  (前田)