(仮称)伸風の森美術館

昨年から取り掛かっていた美術館をようやく書き上げた。小さな私設美術館だが、多くの人と話し合いながら進められたことが嬉しい。真正面から取り組んできたが、昨今の中東情勢の不安と建設コストの上昇もあって、忸怩たる気持ちが拭えない。すっかりブログの更新も滞ってしまった。

建物正面より全体を見る

昨年5月にこの設計依頼を請けた。美術館という記念碑的なプロジェクトとあって、関係する識者を集めて検討準備会を発足、どのような施設を目指していくのか真摯に討議を重ねてきた。昨年11月に討議を終えて、検討準備会として報告書を纏め、それに従って基本設計に着手。昨年末に関係者に提出し、年明けに関係諸氏に意見聴取をした後、2月から実施設計に取り掛かっていた。ようやく図面を纏め、先日の現場説明を経て、数社に見積もり依頼をしたところである。

エントランスより主庭を通して山並みを見る

建設地は宮城県の奥松島で、風光明媚なところだが、かの震災では甚大な被害を被ったところでもある。石巻に仕事で20年近く前に通っていたときは、海沿いを走る仙石線から松島の風景を羨ましく眺めていた。いまは山を切り崩し、街は新たな都市計画で再生されつつあるが、未だ復興の途中である。しかし敷地は東から南に掛けて小高い山の原生林に囲まれて、南西には鉄道の高架越しに名勝松島の海が見え、豊かな自然に包まれた静かな環境にある。

この美術館の構想は、石巻出身の日本画家、山田伸氏の作品に魅せられ、これまで山田先生の作品を数多く収集してきた、同じく石巻で医院をもつ森芳正院長の発案による。山田先生が生涯をかけて築いてきた画業を称え、この地域の人とともに、先生の作品を後世に伝えていきたいと計画がはじまった。大きな震災を経て、確かなものが信じられにくい現代にあって、人の生きた証を顕彰し、守り伝えていくことで、私たち自身が生きる誇りと、人生の豊かさを見つめ直す機会にもなればとの強い想いがある。

茶室の露地庭より建物全体を俯瞰する

復興も道半ばではあるが、その中で唯一確かなものがあるとすれば、それは人と人との繋がりではないだろうか。現地で生き抜いてきた誰しもが、多くの人の支えと、たくさんの愛のある行動や言葉に励まされてきたという。そうしたなかでこの美術館は、美術や芸術を鑑賞するだけでなく、地域に暮らす人々や文化を愛する人たちと手を取り合った、新たなコミュニティーづくりをもうひとつの主題にと考えている。
そのため多くの人が集える広場や、日常気軽に立ち寄れる喫茶室、自由に使える展示室や茶室を備え、美術愛好家や日本文化を愛する人だけに留まらず、ワークショップや教育活動など、幅広い利活用の可能性を通して、人と人との繋がりを深め、温もりを実感できる場所にしたい。都市部に立地する公設美術館とはひと味違ったスタンスを展開したい。

そうした主旨が地域に受け入れられ、私たちも地域に育てられながら、ともに歩みを進められればと願っている。

(前田)