茅葺きの家<上棟>

春の雨が続き、少しずつ暖かさが増してきた。
庭のハナミズキも次第に芽がふくらみ、春の近さを予感させる。
先月、実施設計の納品を終え、また彼方此方と飛び回る日が続いている。

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               <茶畑越しに建物を望む>
茅葺きの家が上棟を迎えた。
先月半ばから始めた建て方も順調な運びで、思った期間の半分で組み上がった。雨天の影響も最小限ですみ、木を濡らさずに組めたのは幸いだった。
そもそも茅葺きは単純な架構が多いのだが、今回は対岸の山や川の景色を取り込もうと、異なる床高を持つ空間を併合したため、複雑な架構となっている。
図面を書きながら考えたことやその気持ちが、こうして形になる瞬間が建て方の時で、私も楽しみ半分、怖さ半分といった気持ちはいま以て変わらない。
間違いはないと図面で指示はするものの、やはり実物を見るまでは不安が拭えないものである。
大工にとってもそれは同じで、曲がりを持った梁を縦横に組み、構造そのものが空間の意匠になるため、墨付け刻みの真価が問われる。材料の段取りから木づくり、墨付けを経て刻んだ材料が、こうして思う通りに組み上がるさまは、やはり感慨深いものがあるのだろう。
棟梁の堤さんも、胸をなで下ろした顔で笑顔を浮かべていた。

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         <なぐりで仕上げた曲がり梁が小屋に掛かる>
この月半ばからは、茅葺き職人が現場に乗り込んでくる。
これだけの大きさで茅を葺くのは私は初めてで、いまから興奮を抑えられない。5月中にはほどほど格好が付くかと考えているが、暫くは現場に通って勉強させて貰おうと思っている。
この地方では茅葺きの民家は絶えて久しく、棟周りの意匠が、かつてどのような形で行われていたのかが分からない。地方色で纏めるか、現代に息づく形として、新たに意匠を整えるかが迷うところで、先日も茅葺き職人と議論をしたところである。

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             <アプローチ付近から全景を望む>
この間、若い大工から電話があって、こうした建物にかかわりたいという。
早速、自ら現場に掛け合ったようで、この建て方の最初から手伝いに来ている。35歳の若者だが意欲充分で、これからが楽しみな青年だ。
落葉樹の植樹も徐々に始めた。敷地があまりに大きいため、砂漠に水を撒くが如しとも思うが、何とか形にして行こうと、庭師とも語り合って進めている。
  (前田)