千葉W別邸ー竣工4.

池に張り出して設けた濡縁が、この庭と建物を繋ぐ。
部屋からも、庭から見ても主眼となる大事なところである。
既に据えられた池中の伽藍石に濡縁の角柱を持たせ、水平に広々と、しかも軽々と見せることで庭との一体をねらった。

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               <池に張り出した濡縁>
和室からは滝口が望め、ここから流れる水音が静かに響く。
濡縁越しの対岸は、緩やかな稜線を描く芝庭が広がり、タブの大きな幹がアイストップとなって空間を引き締めている。
和室は10畳の大きさに床と床脇を備え、意匠を抑えて穏やかにと心掛けた。
床柱は北山絞り丸太、床框は北山杉の天端を真塗りとして取り合わせ、床脇の地板と地袋は山陰の松を合わせた。
北山杉は、京都京北町で直に見て選び、松は博多の銘木商でかねてから目をつけていたものを使わせて貰った。
天井は幅1.6尺の吉野杉、長押にも北山を用いて、ストイックに整えながらも、柔らかさを以て纏めている。
和室周囲には入側を付し、リビングの縁廊下の続きに、屋根裏を現した下屋が巡る。

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                   <和室10畳>
既存の庭に建物を合わせるため、各所の寸法も規矩から外れざるを得ない部分が多かった。それらを微細に調整しながら屋根を整え、全体の整合性を保つことが、最も腐心したことかも知れない。
業者の選定には競争入札を採り、青森八戸の大山建工が落札した。
東京以北での仕事ではお馴染みとなったが、これも社としての体力が充実している証なのだろう。県の卓越技能者に選ばれた中里政義が棟梁を努め、木取りから完成までを纏めてくれた。
事前にストックしていた大径木の原木から主要材を木取ることが出来たのも、日頃の研鑽の賜で、大山社長の陰の努力に負うところが大きかった。
一年半の工期の中、台風が2度、大雪に2度見舞われたが、庭園が広がるこうした環境で仕事ができた職人衆も、いい意味で勉強が出来たように思う。

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               <和室前から庭を望む>
特に最後の纏めでは、庭師の力量が遺憾なく発揮され、見る間に建築と庭が同化していくさまには目を瞠った。
竣工なった建物に一日座らせていただいたが、改めて日本というものを考えていた。
  (前田)
設計監理  前田 伸治
        暮らし十職 一級建築士事務所
建築施工  株式会社 大山建工
          担 当 大山重則  大山 聡
          棟 梁 中里政義
家 具    株式会社 ヤマコー   村山千利