千葉のW別邸が、先月末で竣工を迎えた。
一年半あまりの工期だったが、内容の濃い仕事をさせていただいた。
庭園とのコラボレーションが大きな課題だったが、庭園を含む全体構成としても、遜色ない出来になったようだ。改めて紹介したい。
<表門を見る>
最初にお話を承ったのが平成21年の3月頃だから、思えば5年以上が経過したことになる。
すでに庭が整っているところへ、庭に合わせて建物を新築するという前提だった。庭の完成度は素晴らしく、果たしてこれに溶け込めるような建築を提案できるか不安だった。
構想を聞きながら 、周囲の庭を一時間近くかけて歩いたのだが、そこかしこと細かなディテールが息づいている。相当に練られた構想に基づいて造った庭だと、すぐに伝わってきた。
それを受け、初回に出した案が気に入られ、以来、伺うたびに設計は変わっていったのだが、この間にさまざまなテーマを話し合い、意志疎通が図れたのが良かったのかも知れない。
門からの動線に沿って、紹介していきたい。
<アプローチから主屋、玄関屋根を望む>
南に向けて表門を開く。
敷地内が高いため、周囲の塀も高くせざるを得ず、これにどのように取り付けるかが課題だった。おとなしい構えとの思いは施主と共有していたことから、寄棟を採った。
道路からは、緩やかな勾配で門までアプローチさせ、両脇の塀に取り付く袖の高さを考えながら、石口の高さを導いた。軽やかに翼を広げた姿を屋根に求め、おとなしくも、造形としてしっかりした姿を表したい。
丸太だけで構成された架構は重力が減じ、のびやかに屋根が浮かぶ。
これまでもこの形に挑んできたが、やっと思うような姿ができたようだ。
門前には幅4mの鞍馬石が据えられ、渡来の文人像は脇を固め、門の周囲には吉野の茶利石が畳まれた。
<玄関を見る>
アプローチを入ると、見え隠れする屋根に導かれながら玄関へと向かう。
主庭とは相国寺垣の竹塀で遮りながら、導入空間を演出している。
周囲の庭に対して玄関の存在感を与えるように、玄関前は葺き下ろさずに入母屋とした。外に3尺の土間をとることで、辺りの庭の“気”を引き込めたようだ。
建物に比した大きさの玄関としたが、玄関は来る人が最初に目にするところだけに気が抜けない。使い勝手はもとより、土間から上がるところだけに視線は仰ぎ見る格好になる。
そのため、天井の意匠は重要で、ここでも随分と悩んだ。
施主と話を重ねる中で浮かんだのが、格天井だった。
格式や重厚さを目論んだわけではなく、格天井のもつ品格を取り入れたいと思った。そこで、格縁を細く見せながら、格間に桐板を使うことで、桐のもつ品格と格調を空間に生かし、杉柾の猿頬面をとった格縁で整えていく。
材料が持っている性格を空間に活かすことで、寸法だけでは生まれない感情を表していくのも、数寄屋が内包するひとつの思想だと思う。
<玄関内部>
初めての試みだったが、何とか思うような格好になったようだ。
式台は九州で見つけた山陰の松を、下足入の天板には岐阜で探した栃のちぢれ杢をあしらい、土間は敷瓦の四半敷として、天井の格調に合わせた。
(つづく)
<前田>