来年に向けて

今月はほとんど出張続きで、机に向かっての仕事は滞るばかり。
それでもこの間に何とかまとめ、概ね責務は果たせたようだ。
明日は仙台、その後に青森に向かい、盛岡に寄って仕事納めとなる。
これで今年も暮れていく。

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               <駅前より建物全景を望む>
今年になって、和歌山の串本から和菓子店の依頼を受けた。
来年中に開店したいとの要望で、この数ヶ月、施主と密に打ち合わせを重ね、ようやく先日、基本設計の諒承を得た。基本設計に多くを一年近くかける私としては短期間だったが、この間にさまざまな話ができたのが良かったのだろう。
最初に驚いたのがご主人の作る菓子で、良い意味で期待を裏切られる。和菓子は見た目からおよそ味の察しがつくが、それをことごとく破られてしまう。
本州最南端のこの地に、これほどの菓子があるのかとただただ感嘆している。
長い間、伊勢の仕事を見てくれた上での依頼とあって、胸躍るものがある。JR串本駅を降りた正面に位置し、老舗の和菓子店としての風格を、建物からも追求していきたいと思っている。

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              <茅葺きの家 川からの外観>
本欄で紹介した茅葺きの家も、漸く基本設計が上がり、建築業者数社による仮入札が行われた。事前に茅の手配が必要なのと、木材を早く段取りしたい魂胆からである。建築資材、特に木材はこのところ急騰し始めており、数ヶ月の間に2割も上がるという異例の展開を見せている。
限られた予算とあって、若干の設計変更を余儀なくされたが、先ずは思った範疇で纏まった。周辺の風景に溶け込みながらも、人の営みが感じられる里の景色を作りたい。
両方ともに、歳明けから実施設計に取りかかり、年内に着工を迎える。

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                 <千葉W別邸外観>
千葉の現場も追い込みに掛かり、造作工事が本格化してきた。
仕上げ仕事で緊張は解けないが、思った通りに着々と仕上がっている。
先日、九州で選んだ材料が入ったからと出張帰りに立ち寄ったが、悲しいかな加工者が木づくりを間違えている。杢目の取り方や見せ方に従い、材料の格を遺憾なく発揮させるのが木づくりの醍醐味なのだが、こちらが当然と思っていることが伝わっていない。
すぐに返送し、新たにやり直しを命じたものの、材料の作り方を間違えることで、何百年と経った木の命を無駄にするなど、許されるものではない。
棟梁と加工者の間の連携を密にするのも、私の役目だと強く実感した。

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                  <仙台S邸内部>
仙台の住宅も漸く建て方に掛かり、明日はそれを見に行く。
実施設計後、一年近く待たせたのだが、その間、めぼしい木材を集めることができ、充分な乾燥期間が取れたことで、美しい材料に仕立てることができた。
これも施主との絆がなければできないことで、こうした信頼を戴いて建築ができることはとても嬉しい。
これだけに留まらず、来年はまた各地で現場や計画に取り掛かる。
本欄も更新が滞ってしまい、何をしているのかとご叱声も戴いた。
来る歳は、幾らかでも発信に力を注ぎ、つたない仕事を紹介していきたい。
これからが、私としても仕事を充実させていく歳であり、一層の精進を志し、ひとつことにあたっていく所存である。
  (前田)