今年は殊のほか台風が多い。
いっ時、この時期に毎年現場が続き、そのたびごとに台風に襲われたのを思い出す。雨よりも風に対する養生が手間で、現場の苦労は並大抵ではない。
前回の続きを。
<ふぐや土間>
中央の階段を挟んで、両翼にみせが入るが、下階はどちらも土間としている。
ふぐやは洗い出しの土間に椅子席とし、右の障子を介して格子越しに入口の土間と繋がる。
上階の大座敷を受けるため、床組をあらわに見せた大材が縦横に走る。これを踏天井といっているが、構造がそのまま意匠になることから、平面を考えるときにこうした床組にまで思いを及ぼせねばならない。全てが見え掛かりになることから材料の調達も大変だが、張り天井と違って天井懐がないため、階高を抑えることができるのも特徴である。
家具はナラ材で誂えた。
すしやはカウンターを大きく取り、壁を背にして板場が来る人を迎える。
矩の手には6畳の小上がりを設け、障子を開ければ板場と繋がる。すでに幾度かここで戴いたが、木の香が漂い気持ちがいい。
土間は敷瓦とし、目地を太く白を入れて、四半敷を引き立たせた。
カウンターには桧の厚さ3寸を、椅子は桜材で整えた。
<すしや土間>
上階は、ダイナミックに架構を見せた座敷が連なる。
軒を落とした座敷は、梁が手に届く高さで、間近に見る人はみな驚くようだ。
これがふぐやの座敷だが、大きく3室が屈折して連続し、それぞれの架構によって趣が異なった座敷になった。
すしやは小座敷を連続させ、襖を開放することで大きな一室にもなるようにと配慮している。面積を補いながら目的に合わせた座敷の展開を模索してみた。
座敷から見る外がおかげ横丁で、雪見障子越しに張出し手摺りを設け、中庭には東に向けて月見台を張り出している。
こちらも外観の高さを抑えるため、道路に面した屋根にはね木を入れ、外に出桁を差し出し軒を深くすることで、軒先を低く抑えている。外からはおとなしく、内は豊かな空間を確保するためである。
<ふぐや上座敷>
この建物は地下もあり、鉄筋コンクリート造との混構造となることから、構造計算の解析が求められた。とはいえ、計算で木造の材寸を割り出していては時間と手間が膨大になることから、基本図でおよその概略を掴み、実施設計による木造の架構をもとに、安全性を確かめる形で検証して貰った。
幸い、ほとんどが実施設計で示したように納まり、壁の位置や梁などの材寸も書いた通りに問題なく解決した。
こうした梁組や材寸は、私の場合、これまで教えていただいた方の経験や自分の過去の実績から決めていくのだが、それを計算でもこうして検証できたのは、ひとつの自信になった。
東京の増田建築構造事務所の協力に依った。
<すしや上座敷>
家具や照明なども、特注で誂えさせて貰った。
これも岐阜の村山組の仕事で、後日また別項で紹介したい。
竣工から既に3ヶ月が過ぎたが、順調な滑り出しと聞いてホッとしている。
遷宮を迎える歳に、この地でこうした仕事ができたことは感謝に堪えない。
(前田)
設計監理 前田 伸治
暮らし十職 一級建築士事務所
構造設計 増田建築構造事務所
施 工 高山建設株式会社
鬼瓦製作 鬼亮 梶川亮治
家具製作 ヤマコー株式会社 村山千利