弘前の住宅が完成し、内覧会を終えて戻ってきた。
また機会を作って紹介するが、前方に流れる川から、遠景の山並みが思ったように取り込めた。来た人も熱心に見てくれたようだった。
更新が滞ったが前回の続きを。
<みせ中央の式台>
向かって右側がふぐや、左側にすしやが入る。
どちらも伊勢志摩を代表する海の幸を扱い、特に安乗ふぐは三重県が誇るブランドで、これからの季節に欠かせない伊勢の味覚である。
地上2階建て、地下に各店の厨房を設けている。
おはらい町通より入る路地に建つこともあって、伊勢の町家に拘らず、横丁の大店よろしく形作ってみた。あたりに連なる日本家屋の中にあって、界隈に溶け込みながらも個性的にと心掛けて纏めた。
どちらとも下階は土間として、上階に座敷を設けている。
伊勢は元々2階座敷が客を通す上座敷として作られているものが多く、私の事務所に使っている町家でさえ、2階に本格的な座敷がある。
ここもそれに倣った。
<外観全景>
外観を纏める上で腐心するのが軒高で、いつもこれに悩まされる。
軒高を高くとれば室内の空間構成は容易だが、外から見るとそそり立つ姿になってしまう。それでは日本家屋としては異様で、街道に面した日本の家は、古くから地域によって軒の高さが決められてきた経緯もある。
現代から見ると、それらはとても低い。
しかし、この軒高が安定感ある外観を導いてきたともいえ、それらの制約があっても、さまざまな手法を駆使して内部空間の豊かさを追求してきた。
また敷地の関係で建物が長くなることから、単調になりがちな外観を4つのブロックにわけ、屋根で表情を作りながら、内部用途と壁面のバランスから多様な窓を開けて構成した。
軒高を低く抑え、上下に屋根が折り重なって連なることで、外観に陰影が生まれ、下屋の庇で水平を強調させて全体を纏めている。
屋根にはほのかに起りをつけ、各所の鬼瓦には海の幸を象った意匠を散りばめた。三州梶川亮治の作で、今回は一層生き生きした形に仕上がったようだ。
複雑に絡み合う屋根も、全て原寸を引いて納まりを決めている。
日本建築の造形にあって、屋根に依るところは重く大きい。
(前田)