おかげ横丁北口棟ー竣工1.

伊勢も秋風が吹きだしたが、お白石持ちもあって、連日ごった返している。
内宮領は終わり、外宮領への奉納に移ったが、あらかた今月一杯か。
外宮前には各町の幟がはためき、装束に身を包んだ人をあちこちで見かける。
これが終わると、いよいよご遷御を待つばかりとなる。

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                <横丁から建物を望む>
おはらい町を望むおかげ横丁に、このほど完成した建物である。
今年の遷宮を迎え、横丁も20年の節目を迎えた。
伊勢を再生しようという信念が、おかげ横丁創設の基軸だが、来られる人は、この界隈が伊勢に伝わる古い街並みと思っていることだろう。あたりは今日も観光客で溢れているが、それだけ創設に込めた信念の強さが、今もって色褪せていない何よりの証しだと思っている。
この建物が建つのは、横丁の北の入口というべきところで、これまではおかげ横丁のインフラを支えていた場所だった。
この20周年を機に、横丁の拡張と再整備のため、この企画が持ち上がった。

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                   <建物全景>
120坪ほどの敷地だが、ここに2軒の店を作りたい、というのが要望だった。
飲食の店は厨房も含め、バックヤードの空間がそれなりに必要で、2軒それぞれに建物を分けてしまうとこじんまりした店にしかならない。加えて横丁のひとつの玄関口という要素もあって、ある程度、建物としての存在感も求められた。
そこで、ひとつの建物を2軒で使えないか、ということを考えてみた。
一般には馴染みにくい形だが、これまでの横丁の運営実績がその支えとなった。
建物は使われることがあたりまえながら、この建物を使う、という要素はとても大切で、使うことで人と建物は関係を深め、そこを使う新たな知恵が加わることで、空間がより豊かになる。それが”使いこなす”ということで、そこにもうひとつの建物の魅力があると思っている。
古い町家に限らず、建物の魅力は、まさにそうした住みこなす人の知恵と建築が一体となって受け継がれることにもあって、これまで界隈で作らせていただいた建築も、その趣旨は一貫している。
総面積が300坪、一部地下があるものの、建築には一年半近くかかった。
工事にあたってはいつもの顔触れが揃い、伊勢のチームワークに助けられた。
まだ建物は試運転状態だが、これから磨きが掛かってくることだろう。
数回に分けて紹介していきたい。
  (前田)