おかげ横丁北口棟(足場解体)

例年より早い梅雨入りで、どの現場も戸惑っているようだ。
特に東北は気温が低く、向こうから帰ると温度変化についていけない。
先日、仙台に建てる住宅の地鎮祭を行い、今夏の着工に向けて動き出した。
復興特需の仙台では職人不足が深刻で、些か不安のよぎる始動となった。

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                    <南側全景>
おかげ横丁北口棟も足場が外れ、完成間際を迎えた。
地下の躯体に掛かりだして1年あまり、紆余曲折があったせいか、300坪の工事とはいえ長いようで短かった。現場は外壁がほぼ終わり、順調に外回りが仕上がってきた。内部も細かい造作を仕上げながら、左官が中塗りに精を出している。
細部のディテールも全て確定し、順次大工が納めをつけている。
階段手摺や竹の簀子天井も仕上がり、空調の吹出し周りが残る程度だろうか。
これからひと月あまりで竣工を迎える。
このひと月が面白いところで、現場の状態が日を追って変わっていく。まるで急流を下るように刻々と姿が現れ、次第に空間が濃密になっていく。
壁が仕上がり照明がつき、建具が立て込まれ畳の入る時期ともなると、今までのガランとした空間が次第に生気を帯びてくる。仕事柄、こうした時期を幾度も過ごしてきたが、今でも胸の高鳴りを感じてしまう。
それでも設計をした人間にとっては反省する点もあって、今さらどうこうするわけではないが、期待と不安が入り交じった複雑な心境のときでもある。

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               <大階段正面より2階を望む>
建物前の道路には、おかげ横丁内の仕様に準じ、割肌の御影石を張っている。錆系の石を、ランダムに幅を切断して組むことで、自然な佇まいを心掛けている。
軒の高さも何とか思ったように納まり、屋根の起りも程良い加減で、梶川さんに焼いてもらった鬼瓦がひときわ光彩を放っていた。
外回りの虫籠窓では左官に苦労を掛けた。図で示したものの、現場でなかなか思うような曲線がでず、人知れず親方自ら鏝を振るって直していたようだ。
先日漸く納まった姿を見て、互いに破顔一笑となった。
昨日は事務所で、ここに取り付く簾戸を書いた。
今夏の竣工に向け、監督の小河さんから、もうリミットと告げられてのことだ。
夏らしい装いを見ることも少なくなったが、簾戸の葭を通した透けは、見るからに涼感を誘う。現場も最終段階に入り、ひとり一人に緊張の高まりを感じた。
  (前田)