年が明け、早くもひと月が過ぎてしまいました。
厳しい寒さが続きますが、所々で春めくものも感じられるようになってきました。
皆さまは如何お過ごしでしょうか。
<料亭 嵯峨野 外観>
さて、このたび福岡で携わらせていただきました料亭嵯峨野が、第25回福岡県美しいまちづくり建築賞において大賞を受賞しました。
今年で25回目となる賞ですが、和風建築での受賞は本作が初めてだそうです。
我が国の建築でありながら、建築界での希薄な存在は嘆かわしいですが、私どもの設計スタンスが評価されたことは嬉しく思っています。
設計段階では紆余曲折もありましたが、伝統を守り伝えようとする嵯峨野さんの心意気に打たれ、誠意纏めてきた成果が実を結べたのかと、まずは御礼申し上げます。
これも、最後まで篤い信頼をいただいた嵯峨野さんに心からの感謝を申し上げ、施工にあった淺沼組九州支店、田島支店長はじめ岩切所長、工事に携わった職人ひとりひとりのご尽力に重ねて御礼申し上げる次第です。
上質な和風空間と講評いただきましたが、これはけして派手な意匠や高価な材料からなるものではなく、研ぎ澄ませた感覚と、常なる探求心から構築されるものなのでしょう。
今後ともそうした建築を目指し、受賞に恥じないよう、精進して参ります。
皆さまの変わりないご指導ご鞭撻を、宜しくお願いいたします。
(かりの)
<大広間 舞台から川を望む>
<第25回 福岡県美しいまちづくり建築賞 一般建築の部 大賞>
料亭 嵯峨野
●設計主旨
老朽化した料亭の建て替えである。
これまで培った伝統と、衣食住を統合した日本文化を根底に、現代に生きづく日本を発信しようと再建への指針とした。
建物は佇まいから伺える日本の良き姿を求め、川沿いの修景にも配慮した。内部は大小の座敷を真行草で纏め、川沿いの立地を生かし、座敷各所から川が望める工夫をしている。塀の下を穿ったのは、座った視点で川面を見せるためである。
料亭の存在意義を問い直し、高いプライバシーの確保と幅広い活動への提供という、相反する課題も克服している。
派手な意匠に依らず、研ぎ澄ませた造形を探求することで、銘木珍木に頼らない構成を目指した。
料亭という日本を、伝統を規範に、現代の創造で応えた。
●講評
現代都市では得難くなった、伝統的な数寄屋建築の趣を基本に創りあげた純和風建築である。
住吉神社界隈と那珂川沿いの花柳界の歴史的空間に相応しい、建築文化が再生されたインパクトがある。老朽化した料亭の建て替えを機に、老舗が培ってきた伝統文化を忠実に守り伝えようと挑戦した、建て主、設計者、施工者の共同の創作が、第一に評価されるべきものであろう。
選び抜かれた青森杉をふんだんに用い、呼び集められた地元大工が伝統の技を駆使して創る、柱、長押、床の間、欄間、障子、襖、そして畳が敷き詰められたこの典型的日本座敷の美学は、川面の景観と一体になって見るものを楽しませてくれる。
伝統的な和風住宅が少なくなり、忘れかけている上質の和風空間の生活作法を思い起こすことができるオアシスとして、われわれはこの作品に共感を覚えるのである。
那珂川に架かる住吉橋と柳橋を挟む対岸の老舗三光園と相俟って、土地の歴史性と職人の優れた技術を未来に向かって継承して欲しい文化的意義を感じる建築である。