墨つけ

基本設計が纏まってきた。
住宅や別邸が4件同時に進んでいたが、漸くそれぞれ形になった。
私は基本設計に長い時間を掛ける方だが、施主との深い交流なくして家は出来ないと思っている。そうこうしている間に、一年などすぐに過ぎてしまう。

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            <材料を前に相談する二人の棟梁>
おかげ横丁北口棟の工事が始まった。
地下があるため、現在堀方を進めている。ここ伊勢の宇治地区は、近くに山が迫っているため、山からの伏流水が浅いところを流れている。いってみればどこを掘っても水が出てくるのだが、五十鈴茶屋のときは、この水のために苦難を極めた経験がある。
現在の水位は想定内で、まずは安堵している。
材料も徐々に入ってきた。
栂、米栂を構造材としたが、これまでのご縁で、今回も四国の井原さんに入れてもらった。まだ全体の半数程度だが、胴差や桁などの平もの、柱材、直の丸太梁といったところが主で、先日見に行ったが、まずまずの材料だった。
早速木取りを始めており、仕上がったものから、墨つけに掛かりだした。
建物が大きいため、今回は二人の棟梁が分担する。
写真左が堤棟梁で、五十鈴茶屋以来6年ぶりに仕事をする。実直な人柄で、何より図面を読む力が凄い。今回も広くない敷地いっぱいに建物を建てることもあって、さまざまな手法を用いて高さを抑え、力強さの中にもおとなしさを心掛けた。
その点、日本の木組みは自由闊達で、原理を知ると自在な空間が可能となる。しかし、それを造形にまで高めるのは至難で、材料を知った上で、木を組む要点を押さえながら構築せねばならない。依って図面が難解になるのは必至で、これを形にするやりとりに、堤さんの骨頂がある。
写真右が田畑棟梁で、地下おかげ参道で一緒させてもらった。いつも優しい穏和な表情を湛えているが、仕事になると厳しい一面がある。仕事が好きで好きで溜まらない人たちである。
存じ上げた二人のベテランが支えてくれるのは、何とも心強い。これからの打ち合わせが楽しみである。

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                   <材料の一部>
200坪の建物とあって、年内に建て方ができれば、よしとせねばならないだろう。木組みから壁塵の寸法まで、大小さまざまな課題が山積し、加えて法規的要素にも大きく制約を受ける。
その上で如何に意匠を際だたせられるか、みなの力を結集して望もうと思う。
  (前田)