伊勢市観光協会<外観>

まだひとりで起きあがれないものの、この2日間、大事な打ち合わせで出掛けた。
ステッキをもち、腰をかがめて歩く姿に、20年後の自分を見て笑った。
人にいえば、同情半分それ見たことかと、必ず笑いが起きる。
月並みだが、健康のありがたさが、これほど身に滲みるときはない。

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                   <建物外観>
伊勢市観光協会も、この12日に足場がはずれた。
仮囲いはあるが、漸く建物の全貌が現れた。堂々とした建物にしたいと書いたが、何とか思うように出来たかと胸をなで下ろしている。
個人の邸宅とは異なり、建物の性格上、多数の市民や他府県からの人も訪れる。それらの人に恥じない建築をと、かかわる人の意識が結集できたのは幸いだった。
私も書くからには中途半端な仕事にはしたくない。用途の上からも、伊勢を代表するような現代の町家を作りたいと望んで図面に向かった。
足場がとれた途端、多くの問い合わせがあって大変ですと、笑顔で話す観光協会西村専務の言葉を聞いて、現場も緊張が緩んだようだ。
伊勢の建物は妻入りが原則で、南に大庇が取り付く。神宮のお膝元にあって、平入りの殿舎に倣うは畏れ多しとの説がある。真偽はわからない。
外壁の下見板張りはきざみ囲いと呼んで、通常の下見板より桟が細かく入る。下見板の裏は塗壁となり、きざみ囲いは取り外せるのが原則である。これも外壁保護が目的で、台風の通り道である伊勢特有の気象条件が生んだ造形だろう。
伊勢に来た当初、このごつさには暫く馴染めなかった。しかし、こうした造形にも細かなディテールや約束事があって、背景にあるその土地ならではの意図がわかってくると、自然と受け入れられるから妙である。

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            <物見台と片持ち梁に掛けられた階段>
屋根の上には物見台を作った。
背面がすぐ外宮の森で、この大通り交差点が、伊勢の大祭りやお木曳きの舞台となる。そうした折りにも、ひとつの拠点となることから、建物を使う方途を多く拵えておこうとの気持ちから少し遊んでみた。
果たして眺めは素晴らしく、事務所のN君が早速あがり、歓声を上げていた。
しかし作るのは容易ではない。斜梁を渡して水平梁を組み、片持ちで延ばした梁に階段を掛けるなど、小さくとも複雑である。ほぞ差し、込み栓で組んだ架構に、棟梁世古さんの技が光る。
瓦の品留めには、左官の西川君が場所ごとに異なる意匠を施し、見る人を楽しませてくれる。土間においたへっついも、釉薬を垂らしたようなグラデーションにしてみたいと、上塗りの試行錯誤を繰り返していた。磨き漆喰でそのようなことが出来るのかと思うが、きっと彼なら望んだ仕事をするだろう。
鬼瓦や隅蓋は、いつもながら三州の梶川さんにお願いし、瓦の大西さんも丁寧に葺いてくれた。かかわったみなの手仕事が実を結ぼうとしている。

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  <打ち合わせ風景 中央奥が西村専務、手前左が世古棟梁、手前右が私>
完成したら、改めて紹介したい。
暫くは机に向かう仕事をしながら養生に努め、20日からは福岡をはじめ、長い出張に赴かねばならない。それでも仕事をしているのが楽しいのは、多くの心意気に囲まれる心地よさではないかと、現場にいながら感じた。
  (前田)