府中I邸 竣工3.

打ち合わせに伺った当初から、隣室の炬燵が気になっていた。
そこで、「リビング派ですか、茶の間派ですか」、と尋ねてみた。
「もちろん、茶の間派です」
間髪を入れず、見れば、お母さん奥さまともに微笑んでいた。

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               <茶の間 庭に開放する>
家族で炬燵に入り、お茶呑みながらしゃべるのがいいという。
いつしかリビングがあたりまえになったが、ひと頃はみな茶の間だった。もちろん我が家もそうだったし、炬燵のぬくもりは茶の間の象徴で、冬の醍醐味だった。
しかし、今や我が家も炬燵はなく、子供らは炬燵を知らない。部屋全体を暖房するようになったせいもあるが、中には不衛生と一蹴された家もあるのではないか。
震災で見直されたものの、局所的な暖房器具は次第に避けられつつあるのが実情のようだ。
家族で炬燵を囲む密着した関係に比べ、今のリビングは、それぞれが好きなことをしながら緩やかに繋がっている感覚がある。
だんらんも、時とともに変わっていくのだろう。

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                 <矩の手に回る濡縁>
南西の最もいい場所を茶の間として、客間とダイニングを繋げた。
ダイニングとは南北に接続し、屋根なりに梁を登らせた架構を見せ、襖越しに接する客間とは、ふた間続きの広間にもなる。
外には濡縁を矩の手に回し、材料は栗を使った。
庭を囲んだり、部屋と繋げても使えるようにと、柿の木側はたっぷりと6尺幅としている。
濡縁に面する建具は、全て引込み戸とした。雪見障子、ガラス戸、網戸、雨戸と本数も多いが、気分によって開放感を選べるのがいい。これらすべてを開け放つと、まさに内外一如と気が充満する。

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          <ダイニング~茶の間 階段上 東の高窓を望む>
配置の経緯から、鍵型プランの入隅にあたるところが、ダイニング、キッチンになった。与条件からみても、東の共同住宅と西の柿の木との間、この場所しか考えられなかった。
プランだけで見ると、ここは家中の交差点になる。動線が交錯し、西に面することから、果たしてダイニングになるのかと不安があった。
そこで食卓に朝日をと、登りなりの吹抜を活かし、東に連窓の高窓を開けた。隣家の視線を避けるよう磨りガラスとしたが、果たして朝の光が燦々と注ぎ、そこここに光が反射して明るい。
対する西側も同じく高窓を開け、こちらは透明ガラスとした。
西窓からは流れる雲も伺え、座して見る空の青さがすがすがしい。まさに高窓の効用である。
ここにいると、家の中が手に取るように分かる。デザインだけでなく、場の利を強調することで、空間の個性は自ずから生まれる。
西日を心配したが、北が若干振れているせいもあって、冬でも午後3時には直射日がはずれる。高窓のメンテはあるものの、刻々と変る多彩な光の表情は代え難いものがある。

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              <ダイニング 薪ストーブと高窓>
  
薪ストーブも、当初からの要望だった。
家族が集まる真中において、みなで火を囲みたい。
引渡し前の試運転で効果を実感したが、やはり直火に勝るものはない。
暖かさはもちろん、立ち去りがたさも、である。
(つづく)
  (前田)