府中I邸 竣工2.

「建具はぜひ、木にしてほしい」、と当初からの要望だった。
ここは近くに幹線道路が走っているため、準防火地域に指定されている。
そのため、延焼ラインに掛かる部分は、防火認定のサッシを付けざるを得ず、それを外して配置しない限り、木の建具は入らない。

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                 <玄関入口をみる>
かつてのお家も、玄関が木の格子戸で、カラカラとやさしい音を立てて滑っていた。小さな土間の脇が棚になっていて、いつも花が飾られ、清潔感ただよう玄関だった。
木の建具は造形が容易で、どのようにも作ることができる。もちろん、技術的な裏付けがなければならないが、意匠の幅は広い。
基本設計中も、「ここはどんな建具が入るのですか」、と熱心に聞かれていた。
若い施主ながら、建具まで言及されるのは珍しく、却って頼もしさを覚えた。
敷地に余裕はあるものの、延焼ラインを避けるとなると、かなり制約を受けてしまう。何とか、南庭から柿の木までがそれに充てられるかと、ここにパブリックな部屋をつなげて、木の建具を立てることとした。

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                 <玄関内部正面>
東側の道に沿って駐車場をとり、南東角に開けた門からアプローチを渡って玄関へ向かう。玄関には以前にならって格子戸を立て、欄間に無双を開けた。
少し余裕をとって幅を7尺にしたが、この幅があると随分広く感じる。南に向けたため、格子越しにもかなり明るい。
東側一面には収納をとり、下足をはじめ外用の収納に充てる。正面の壁には、花入れが掛けられるよう無双釘を仕込み、地窓を開けて外の緑を入れてみた。
土間の上は掛け込みとし、上がり框にケヤキを、続く床にもケヤキを張った。
ケヤキは施主たっての要望だった。
土間にはお母さんを気遣って腰掛けを設けたが、この板は、かつて花が飾られていた玄関脇の棚を利用している。

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                  <玄関見返し>
玄関裏に和室を設けて客間とし、これに接して、茶の間、ダイニングと繋がる。
客間は、1間の床に床脇を添わせた。
隣接する茶の間に向け、床脇の障子奥には、家族を見守るように父君の仏壇が座る。台座は、以前床の間で使われていた一枚板のケヤキを、障子下の框には、かつての床框を削りなおして使った。
南には庭が広がり、これに面して各部屋、木の建具が回る。
客間は雪見障子の外にガラス戸を立て、網戸、雨戸がつく。
普及直後、アルミサッシに冷たさを感じた人も、この便利さに今や常識となった。
こうしてみれば、木の建具の優しさ、美しさ、この柔らかな表情が伝わるだろう。9尺2枚の戸としたため、さらに存在感が際立った。

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                 <和室8畳床をみる>
ちなみに、仏壇構えに再用した床框は珍しい木で、大工に見てもらったところ、「梨」の木だという。黒い縞模様が走る、独特の風貌がある。
父君も愛した木の家を、古材を受け継ぎ、整えてみた。
(つづく)
  (前田)