府中I邸 竣工1.

伊勢の実施設計に続き、青森の料亭に取り組んでいる。
行き詰まる合間に仙台の住宅を考え、日中は動いている現場の対応もする。
そのようなことで、年頭の誓いむなしく、暫く更新できずにいた。
遅ればせながら、昨年末に竣工した、府中I邸について紹介しよう。

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           <柿の木を囲んだ建物全体を俯瞰する>
東京都府中市に建つ住宅である。
施主は30代、ご夫妻にお母さん、子供ひとりを加えた4人家族である。
亡くなられた父君が、殊のほか木の建築を愛されていたそうで、その血統がご子息に引き継がれたのだろう。HPから尋ねてくださり、設計の依頼を受けた。
当初、話に伺ったのは父君が建てられたお家で、昭和の香りが残る木造家屋だった。通された8畳間は全て無垢材で作られ、床の間には立派なケヤキの一枚板が張られていた。
これまでの経緯や家族構成、将来の展望などを承ったが、何より木の家に対する熱い想いに圧倒された。このお家も見るところ、断熱も充分でなく、すきま風など住みにくい面もあろうに、家族が誇りに思って暮らす記憶が、これほど強い熱意を育くむのかと胸を打たれた。
話を重ねながら設計を煮詰め、実施設計を書き終える頃には、お会いしてすでに一年が過ぎていた。
敷地は充分な広さに恵まれた南面した土地で、申し分がない。
だが、北側には共同住宅がせり出し、庭の中央には大きな柿の木があって、家族のシンボルになっていた。また都市計画上、準防火地域に指定されており、木の家へのリスクが高いことも分かった。
「建具はできるだけ木にしてほしい」
純粋に望まれる木の家への要望にどう応えるか、そこから設計が始まった。

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                  <門から建物を望む>
漠然とだが、柿の木を囲むように建物を雁行させ、入口から奥に従って屋根を登らせ、形にしようかと考えていた。
これまでの話の中で、美しい屋根を、という言葉が幾たびか出たのが印象にあったためでもある。瓦屋根は平面を含め、単純な形に集約しないと、綺麗な美しさが出ない。雁行した建物と屋根の形が、先に浮かんだ。
また南面した好立地にあって、あまねく部屋が南を向くようにと考えれば、自ずから配置は限られる。改めて見ると、屈折した配置に従って登る屋根は、奥行きある立体を生み出し、建物を大きく見せることになった。屋根にはほのかな起りをつけ、穏やかな佇まいも加味している。
また、以前小欄で紹介した鬼瓦をご覧になり、ぜひ素敵な鬼をと所望された。
いつも手を煩わす三州の梶川さんだが、話したら快く引き受けてくれ、ご主人が希望する狛犬と大黒を象った鬼、それぞれを作ってくれた。
家紋も入れたいとの要望を投げかけたところ、住宅では珍しい”鳥休め”だが、そこに家紋を入れたらどうかと、梶川さんから提案があった。果たして施主の思いに不安もあったが、即刻諒解され、このような形に納まった。

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              <道路面、上下階の妻に鬼が載る>
足場が掛かる工事中にも、この鬼を見に、さまざまな人が訪れたのには驚いた。
大いに、皆さんの興味を引いたらしい。
狛犬は鬼門を睨み、大黒は辰巳の吉方に向かって微笑んでいる。
惹きつける造形力が、この家に華を添えてくれたことは疑いない。
(つづく)
  (前田)