樹に元気がないな、そう思っていたらやはり塩害だった。
震災当時、少ないところでも3日間、海水に浸かるとこうなるのだと知らされた。
先が赤くなった矢先に葉が落ち、次第に枯れていく。
現場に行くたび、それは広がっていった。
<背景となる木々>
茶室の背景に添えたカシも全滅で、やむなく今のうちに総入れ替えをした。
新たに、6~8mほどのモッコク、モチ、シイなど、葉張りも大きく幹の太いのを選んでもらった。樹が揃ったと連絡を受け現場に着くと、加藤君の裁量になるそれらの木々が横たわっていた。
「さあ、どれから植えていきましょう」
加藤孝志の威勢いい声に、つい胸躍らせてしまう。
一見すると、森を拵えるのかと見まごうほどの量だが、現場が大きいこともあって難なく消えていく。砂漠に水を撒くが如くかといって笑われたが、空間の大きさがあっという間にそれらを呑み込んでいく。
立ち位置と形(なり)を見るのが私の役目で、あとは加藤孝志の采配よろしく、さすが手際よく思った通り納まっていく。
露地周りの小さな葉ものは枯れたが、これらの木が植わったせいか、若々しい助っ人がきたような活気がよみがえった。これより土を含めて順次入れ替えを行い、元に戻していく。
「かえって植え替えてよかったようですね」
森先生の顔にも、屈託ない笑顔が戻ってきた。
<露地から見る増築建物>
新しい庭も徐々に進めている。
奥池の石組みと植裁にあらかた目途をつけ、これから植樹ができなくなる夏期に池底を固め、流れの端緒を作っていこうと考えている。
何しろ全長80mの流れになるため、途中どのような景色を作り、流れの緩急をどうつけるか、それに伴って周景をどう拵えていくか、現場で描かねばならない仕事がたくさんある。
増築した滝見亭も順調に進んでおり、漸く造作に見通しがついた。
新たな庭の背景にもなるので、20坪ほどの建築だが仕事は難しくなった。
近日中に左官も入ると聞き、竣工に向け、もう一息といったところか。
<左から、庭師加藤孝志、大工佐藤一翁、石巻電気千葉さん>
既存の建物もすべて清められ、新たな畳も敷かれた。
少しずつだが、旧に復しつつある。
なかには塩害に負けずと芽吹く樹もあって、松や紅葉はすこぶる元気がいい。
生命の逞しさをみるようだ。
先日、震災以来初めての茶会が、新しい畳になった広間で行われていた。参会者同士、励まし合う声が障子越しに洩れ聞こえてきて、ここにも漸く小さな炎が灯ったかと嬉しく思った。
(前田)