料亭の建築4. 上棟

福岡の料亭が上棟を迎えた。
延べ面積が大きく、法規上木造では厳しいため、躯体には鉄骨を使った。
それでも姿は日本を現したいと、構造体にも繊細な納まりを求めたため、施工には思わぬ難儀をかけた。
このほど漸く建物の全貌が現れた。

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                〈前面道路より建物全景を望む〉
日本の姿といえば、やはり屋根に象徴されるだろう。
かけ方や勾配の取り方、高さの加減などによって、ずいぶん雰囲気を左右する。佇まいを決めてしまうといっていい。それに加え、屋根の面を反(そ)らせたり、起(むく)らせることで、感情まで表現できる。
より穏やかに見せるには、屋根の面を起らせるといい。少々のことだが、こうすると、受ける印象は格段に違うものとなる。
木造なら、母屋の高さを調整して垂木を打ち、屋根の起り(むくり)を加減するのだが、鉄骨ではそう簡単にはいかない。
当初想定していたC型鋼で曲げを試みたが、歪みが大きく、取付けは困難と予想された。そこで角パイプを起りに合わせて曲げ加工し、躯体に取付けている。それぞれ異なる屋根の起りごとに曲率を出し、一本ごとにR加工を施した。これを現場で取付けたのだが、それを水平に固めるだけでも神経を使う。
躯体の柱も、内部の木軸に合わせて位置を決めたため、通り芯からずれる箇所が多く、納まりは予想以上に複雑になった。
毎度のことだが、どの現場も、立ち上がった姿を見るまでは落ち着かない。
寸法通りと承知しながらも、書いた責任に不安は尽きない。
生憎の雪混じりの天候だったが、多くの参会者を得て、先日上棟式が行われた。建方なった姿を見て、先ずは胸をなでおろしている。
以前施主が、上棟の際に散餅されたそうで、この度も是非にと餅まきが行われた。子供たちもたくさんに集まり、多くの人の寿ぎを受け、盛会な式典となった。
今では餅まきなど、滅多に見掛けなくなったが、ともに喜びを分かち合う、ゆかしい上棟の風習である。

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                  〈散餅の様子〉
月末からは大工が乗り込み、木工事が始まる。
長さ10mの破風板や内法材の手配も終え、目下材料加工の真最中である。週末には破風の原寸を引きに、木取りにも立ち会い、天井板を仕入れる秋田へも足を運びたい。
工事は淺沼組九州支店が誠意取り組んでくれ、現場の岩切所長以下、一丸となって気を吐いている。
設備も含め、懸案のこともあらかた解決の道筋がついた。
いよいよ臨戦体勢に入った。
(前田)