福岡の料亭も着々と基礎工事が進行している。
当初土中の埋設物でアクシデントもあったが、まずは順調に滑り出した。
木材も相当な量にのぼり、材料集めも佳境に入った。
書院大広間の長押や内法材には、長さ10mの長物が必要なのだが、このほど漸く原木の目星がついたと報告があった。月末にはそれらを見に行く。
〈屋根起りの施工図〉
現場はこれからに備えた施工図作成の真っ只中で、毎日のようにやり取りが続いている。
この施工図が工事には重要で、設計意図を作り手に伝える架け橋となる。
どんなに細かく図面を書こうとも、実施設計で書ける内容はせいぜいが6割までで、後の4割は現場で作っていかねばならない。
その大事な役割を担うのが施工図である。
設計図に書かれた内容を実際の工事にあわせ、細かく納まりを書いていく。
基礎から始まり各部位ごとに、建物本体はもとより、それに伴う設備の納まりなど、建物に関わるありとあらゆる図面が拵えられる。
建築に関わることは現場監督が、あとはそれぞれの職種ごとに、意匠に関わる部分は私も書くし、必要ならば原寸を引いて指示もする。
それら全てを合わせれば設計図を遥かに凌ぐ枚数になるのだが、この作業が建物に命を吹き込んでいく。
随時、書かれたものに朱を入れ、意図を伝えていくのだが、これが現場と交わす初の会話といっていい。ここでのやり取りが互いの理解を生み、信頼関係を育む。
その意味でも寸法は重要で、的確な寸法の伝達が設計意図を明確にし、込めた思いを伝えていく。
端的にいえば、これはいい建築になると現場一同が手応えを持って初めて、設計が現場を導けるのであって、私らの力量も試されているのだ。
現場の進捗が目立たないこの時期だが、作られる建築にとっては、存在価値を決める大事な時でもある。
現場の始まりは、どこもぎこちない。
そこをいかに早く、打ち解けるかも大切なところだ。
現場は人が動かすのであって、立場や知識でみなを纏めることなどできない。
それぞれの経験者が互いを尊重し、ひとつの目的に向かえる雰囲気を培えれば、黙っていてもいい仕事になる。
人間性への理解が、施工図のやり取りの背景にあるのも確かだろう。
今日は屋根の起りを決め、軒高などの骨格を決定する。
朝いちばんの新幹線に飛び乗り、向かう車中でこれを書いている。
気付けば現場にのめり込み、今も傍らの図面を広げ睨んでいる。
(前田)