福岡の料亭も、およそ実施設計にめどがつき纏めに入った。
しかし安閑とはいかず、新規依頼の計画に没頭している。
先日来、各地の豪雨は予断を許さず、自然の脅威をまざまざと感じる。
水との戦いは我らの宿命でもあり、とても他人事とは思えない。
<国道側より建物全体を望む>
以前パースで紹介した伊勢の仕事も、この5月末に竣工した。
時がたったが、順調な滑り出しと聞いて胸をなで下ろしている。
伊勢、おかげ横丁の西の入口に建つことから、計画では西玄関棟と呼んでいた。
前面には内宮へ向かう国道が走り、道を挟んで神宮会館が建つ。併設して立体駐車場が整備されたこともあって、近年こちらから訪れる人が増えている。
また開丁17年が過ぎ、拡大した横丁のバックヤードが逼塞してきたこともあって、早急な手当をする必要にも迫られていた。
それらの条件が、この計画の背景にある。
国道から下がる道の角地で、ほぼ正方形に近い地形をしている。道路との高低差が気になるものの、敷地条件は良好といえる。
当初話を伺ったときに、第一義の倉庫、配送機能を中心部に纏め、道路に面する矩形部分を店にする構想が漠然と浮かんだ。
周辺一帯は昨年から景観条例が施行され、良好な街並み形成を行政からも後押ししている。これもおかげ横丁の出現が起因にあり、その意味でも現代における街並み再生の方途を開いたといえよう。
景観条例には高さ制限もあり、その中で如何に機能を充実させるかが問われた。
外的条件の下、求められる空間を確保しつつ、環境に相応しい建築に結実しなくてはならない。その課題を満足するためには、鉄骨を使った大空間の架構も必要で、従来の木造と取り混ぜて形にしたい。
用途が求める構造形態と、地域が求める建築が導いた結論だった。
このように、ひとつの建物で異なる構造が混在するのを、「混構造」と呼ぶ。
実はこれがネックで、確認申請の取得には予想以上の困難があった。
<みせ内部吹抜>
ついこの間まで問題なかったものが、昨今の建基法改正で格段に厳しくなった。
特に、混構造における構造計算は厄介を極め、結局5ヶ月を申請に要した。
ある条件を超えると通常の申請機関だけでは済まされず、適合判定診断が別に求められる。この診断に大幅な時間がとられ、申請当初はどれだけ時間が掛かるか分からない、時間を短縮したければ条件以下で設計することだ。
聞きにいった役所で、遠回しにそう告げられた。
今回、鉄骨と木造が交錯している部分もあるが、およそは構造別に空隙を以てジョイントしているだけのことで、鉄骨の上に木造が載るような純粋な混構造とはしていない。にもかかわらずである。
余談になるが、木造における昨今の法律は、在来工法を主体にしていて、伝統的な建築工法にはその用意がない。おしなべて在来工法と読んで、当てはめるだけである。
その根拠を確立しようと本年、「伝統を未来につなげる会」が東京の構造家、増田一眞先生を中心に発足された。求めに応え中村昌生先生が会長に就き、全国から大工、建設業、設計者など1000人あまりの人が立ち上がった。
私も実行部隊の末席に連なる。
法律とはかようなもので、全てを網羅するなど無理にしても、このままでは我が国独自の建築が、この先作れなくなるのではとの危惧は、歳追うごとに強くなってきている。
話は逸れたが、この確認申請を通した顛末には、呆れて言葉もない。
設計者はともかく、これだけの時間が与える建築主への損害は甚大である。
法律が建築の形を抑制するなど、本末転倒も甚だしい。
本題に触れる前に激昂してしまったが、建物の詳細は次回に述べたい。
(前田)