仕事にかまけて更新も滞ってしまった。
この間、伊勢おかげ横丁の西入口に建つ茶屋も竣工し、またひとつ賑やかさが加わった。
後日改めて紹介したいが、現在、青森、盛岡、山形、宇都宮、東京に、伊勢で3件ほどの仕事を抱え、めまぐるしい日々に追われている。
それに加え、一昨年来になる福岡の老舗料亭がある。
<前面道路より建物全体を望む>
このほど、ようやく全体構想が固まり、実施設計の真っ直中にいる。
これまで随分と紆余曲折を経たが、老舗の名に相応しい建築になるかと、胸躍らせ鉛筆を走らせている。とはいえ、昨日からはたと高さの納まりで行き詰まり、手がとまったまま机の前で動かない。
ここで安直な解決をしてしまうと、建築にはならず、一件の仕事中には、このようなことを幾度かくぐり抜けなければならない。
人それぞれ脱し方があるだろうが、私は下手で、寝ても覚めてもの類である。
福岡の中心部を流れる、那珂川に面した絶好の地に建つ。
近くに住吉大社があり、都市部でありながらも緑鬱そうとした森が広がる。川面を望めば、すぐそこに中州が広がり、博多ならではの夜景が間近に迫る。大社の参道なのだろう、川には立派な欄干が架かり、土地の歴史を感じさせてくれる。
全体の建坪が280坪。多くを平屋建てとし、一部に2階を載せている。
川に面して座敷を連ね、100人も充分な大広間も備えている。
小さな小座敷も、残月を写した茶室もある。
いまでは少なくなった、花柳界の舞台が展開する。
<四畳半座敷から露地を望む>
計画当初のこと、便所の設け方に、なるほどと肯かされた。
料理屋なら階に纏めてとる便所も、料亭ともなればひと部屋ずつに取らねばならぬという。隣座敷の人と目を合わせないためで、何より顔をさすことを嫌う。
主室に接して次の間が(そこが芸妓の踊るところになるのだが)控え、座卓の室礼と次の間との関係や、ひと舞の折りにも料理を供せれる配膳スペース、召しものをたとうに仕舞う場所、隣室との関係など、座敷を使うための機能も重要で、それでいて各部屋ごとに趣向が凝らされねばならない。
心遣いを具現化する、とでもいえようか。
これが料亭の不文律なのだろう。
<川側から建物全体を望む>
花柳界には縁遠い身ながらも、大いに夢を膨らませている。
小唄や都々逸など、先生に習っとけといわれた昔に、やっておけばよかったと、今さら悔やんでも後の祭りである。せめて、客になった目線で書き上げてみたい。
秋口には着工の予定で、詳細はいずれ改めるが、目下この納まりを解決しないと先には進めない。
気分転換にと書き始めたが、まだ出口は見つからないようである。
(前田)