細目格子の戸を開けると、両親の玄関になる。
和を望まれたことから、少々数寄屋の味付けをして導入路とした。
正面を大きく開き、戸を開けた途端、敷地いっぱいの奥行きが飛び込む。
閉じたアプローチと一転して空間が広がる。
<両親玄関から庭を見る>
天井は化粧屋根裏、杉小丸太を配って木舞を渡し、杉板を薄く羽重ねに張る。
天井裏の、構造梁とのわずかな間隙を縫って形に整えた。玄関土間には玄昌石を、床板には赤松を張った。
家の各所にこの赤松を使ったが、実はこの板、端材を加工したものである。
梁とか長尺の板類を取った後の材で、写真をよく見ると分かるが、相当短いものも含まれている。市販のフローリングだと、およそ継ぎ目が互い違いに揃っているが、こうしてランダムに張ると、ほとんど継ぎ目が気にならない。
以前、伊勢の高山棟梁から教わったのだが、こうすることで端材を活かすことができる。しかも無垢の木でこれだけの床を整えるとなれば、金額的にもそう簡単なことではない。資源の有効活用はこれからの時代の必須である。
左の板戸を開けると、客間へ通じる廊下となる。
<ダイニングより中庭を望む>
飾り棚を横目に大きな格子戸を開けると、そこが両親の居住空間となる。
客間との間が中庭となって、緑を伺いながら庭に沿って住空間が連なる。
そのためにも、客間の軒を低く抑える必要があった。
建ちが高ければ何より鬱陶しいし、日当たりを削ぐことになりかねない。居住スペースにとって庭を挟んだ客間の外壁は、庭を含めた内壁と同等で、その点を意識して意匠を整えている。
家具も極力造り付けとし、生活空間を広々と取るよう配慮した。
ダイニングと続きの和室が茶の間で、その隣が寝室となる。
天井は各室とも上階の床梁を現した、いわゆる根太天井と呼ばれるもの。
4尺間に配った床梁に、1寸厚の床板を張る。化粧に天井を張ってもいいが、木組みがしっかりしていれば、敢えて体裁を飾る必要もないかと、座敷以外ではこうした取り組みをしている。
<茶の間からダイニングを見る>
ここから見る庭は、客間と趣を異にし、私室に付するものとして密度を上げた。
お母さん望みの松を中心に、以前から植わる木も含め、私の考えで配り直した。
祖母ゆかりの清柳、ご成婚時に植えられた梅など、大事な想い出とともに、今までの住まいから移した樹木も多い。
庭は、遠路厭わず、加藤孝志が手掛けてくれた。
<廊下から庭を見る>
当初お父さんは、自身で建てた家を手放したくなかったようだ。
子育てや夫婦の成長、家は家族の歴史そのものなのだから当然である。
そのお父さんが工事も終盤になって、
「この家なら移っても良いと思うようになった」、といった。
ご子息とともに住むという感慨もあるのだろうが、この家に込めた魂魄も受け入れられたのかと、作り手のひとりとして、やはり嬉しかった。
(前田)