玄関から廊下を挟み、その奥が、客間兼用の家族室となる。
廊下は両親の住まいに通じ、家族互いが自由に使うことができる。
家族同士がふれあう季節の行事や食事会、それぞれの友人知人を集めた催しも可能だ。家の中のパブリックなスペースとなる。
<家族室外観>
全体がL字型の平面に、この部分が庭にせり出した格好となる。
それによって、肝心な居住空間が暗くなっては本末転倒で、極力影が落ちないようにと、この屋根の形になった。
内部は大きく屋根裏を吹抜き、架構をそのままに現している。縦横に渡した赤松の丸太梁を八角に整え、高さが異なる主屋の胴差と組むことから、曲がりを求めて材料を探して貰った。今ではこうした曲がり木が手に入りにくい。造林の関係から、商品価値が見込まれない木は、早々に倒される。いい換えれば、直材の素直な木しか、商品にはならないのだ。
軽快に見せるため母屋を省き、垂木の寸法で持たせているが、猿頬に大きく面を取ることで軽快感を損ねずに纏めている。
庭に面した建具は9尺の引込み戸で、開け放てば庭と一体になる。
庭の隅には、兼ねてから桜の老木が立ち、グラウンドは芝生とタイルで覆った。
見るためというより、使うための庭と考えている。内外一体の空間として、自由な展開が演出できるだろう。
<庭を見る>
内部は10畳の広さに、床と書院を並べて配している。
そのような使い方のため、格式張った座敷の構成は避けた。
書院の障子を開けるとご両親の玄関庭に通じ、南天や篠竹の緑が映る。床は框を置かずに台面とし、書院も重心低く落ち着かせた。
また、床柱にはえんじゅを、落とし掛けは桑、床脇壁留めには梨を使った。
この取り合わせは八戸地方に伝わる縁起もので、大山さんの提案による。
えんじゅ、くわ、なし。
「年中、苦はなし」にあやかるものという。
<床正面を見る>
各窓に立つ障子の拡散光は、室内を柔らかな光で包む。
小屋裏特有の深い陰を嫌い、仄かな明かりで空間の大きさを掴まえたかった。
柔らかな陰影は表情を豊かに、剛胆と繊細さで空間を奏でたい。
そう思って、計画当初から迷わず書いたが、家族の成長を育むたくましさを、内心託したのかも知れない。
(前田)
<天井の構成>